凡人が成果を出すための習慣

残業ゼロで成果を出すには、どうしましょうか?

異世界×プロジェクトマネジメント 第11話『シンプルな方法をとるべし』

プロジェクトマネジメント知識をライトノベル感覚でお伝えする小説です。
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しばらくプロジェクトが進んだ折、1つの大きな課題が見つかった。
魔法制御プログラム、に関するものである。

魔道具を使った兵器は、とても複雑な作りだ。
この世界には魔力が存在し、魔導士はその力を行使して魔法を使う。
魔力を特定の物理的な入れ物にためておくことで、魔道具として使うことができる。

イメージは、元の世界の電力と似たようなものだ。
物理的にためたものはバッテリーになり、バッテリーの力でパソコンを動かしたり扇風機を回したり。

電力の代わりに魔法の力を魔道具に貯め、魔導士の魔法を再現するわけだ。
ただ、魔法というのは発動が複雑で、特定属性のエレメントを絶妙なバランスで配合、制御する必要があるらしい。

その微妙なコントロールに慣れがいるため、魔導士は魔法を訓練する。
難しい魔法はそのコントロールが難しい。
魔法に長けたものは、魔力の量もさることながら、魔力の微妙なコントロールが必要なのだ。
メグは、そのどちらも持っている。
だから、とても魔法を覚えるのも早いし、魔法も多く使える。
それが、いわゆる優秀な魔導士なのである。

その微妙なコントロールを魔道具で再現するためには、魔導士と道具使い、療法の知識が必要となる。
属性エレメント配分は魔導士しか分からない。エレメント配分を魔道具で再現することは、道具使いによる調整が必要となる。

設計フェーズにおけるもっとも大きな仕事は、この魔道具の設計である。

今回構築する兵器には具体的には次の機能がいる。
・機動力を削ぐ”アースバインド”を再現する機能
・鉄の矛を射出する機能
・矛をゾームに正確に当てるための”ロックオン”という魔法を再現する機能(これは弓矢を打つ際の補助魔法としてよく使われるものらしい)
・矛に”サンダーボルト”を再現して放つ機能

矛の射出以外は、魔道具の力を使う必要がある。

いずれも下位の魔法であり、比較的再現が簡単な魔法であることはマーテルに確認済みだ。
だが、難しいのは発動のタイミングや、発動位置なのである。
魔導士は目で見て魔法を発動する場所を自ら調整することが可能だ。
だが、魔道具には目もなければ、脳もない。
なんらかの形で、どこに魔法を発動するのかを決める必要がある。

ゾームに刺さった矛。
その標的へのサンダーボルト。
これをどう制御するのか、マーテルには思いつかなかった。
それが課題である。

 

課題解決のため、臨時で会議を開いた。
マーテル、メグ、ランペルツォン、ヒロの4人での会議である。

ヒロが切り出した。

「サンダーボルトの照準を魔道具で合わせることが、なかなか難しいと
 マーテルさんから伺いました。
 何か打開案はないかと思い、皆さんを集めました」

マーテルが続いて口を開いた。

「私も魔道具作りはこれまでいろいろとやってきました。
 が、サンダーボルトを再現する場合、標的へ魔道具を向けるとか、投げつける、なんてのが一般的です。
 今回は、ゾームに刺さった矛へ魔法を放つという動作にする必要があるのですが…
 これがタイミング、発射位置が難しいのです」

ランペルツォンが尋ねた。

「具体的に、どう難しいのか、教えてもらえるか?」

「分かりやすく言えば…
 矛が射出されて、ゾームに刺されば間髪入れずにサンダーボルトで雷撃を与えなければいけません。
 アースバインドの足止めは、そこまで長持ちするものではないですから。
 タイミングを早く、かつゾームの人間部分に刺さった矛という、離れた標的へのサンダーボルト発動。
 となると、かなり魔道具の制御が複雑になるのです」

「複雑になると、マーテルでは作れないということなのか?」

「失礼ですね!
 …と言いたいところですが、実際はそうです。
 この兵器は複数の魔法を連続で放つものになります。
 魔法を連続で、タイミングを合わせて放つような魔道具は、利用シーンが限定されすぎて需要がないのです。
 ようするに、こんなに複雑な制御の魔道具、普通は誰も欲しがりません。
 だから、私にもノウハウがないのですよ。
 ただ、メグさんの力を借りれば作ることはできるかと思いますが。
 魔力の流れに熟知したメグさんなら、複雑な制御もどうすればよいか分かるでしょう?」

一同はメグの方を見た。

「…できる。
 魔道具の魔力波動に対して”ロックオン”の魔法をかけ、サンダーボルトの方向を固定させる。
 矛を”サーチ”の魔法で対象として選んでおけば、実現はできる」

マーテルははっとしたような顔で言葉を返す。

「おお、そんな方法がありましたか!
 ですが、なんとも複雑な制御ですねぇ。
 が、メグさんはその魔法制御プログラムが組めて、魔道具に封入できるということですか」

「たぶん、できる」

ここで、ランペルツォンも口を挟んだ。

「確かに、非常に複雑そうだが、上位魔法が使える魔導士なら作れなくはないな。
 これまでそんな複雑な制御プログラムを持った魔道具は見たことはないが…。
 だが、これでゾームが討伐できるのなら、良い案だろう」

「ちょっと、待ってください」

ヒロが一同を制した。

 

「とても複雑な制御。
 上位の魔導士でしか作れない。
 そんな魔道具が組み込まれた兵器になるということです…
 これは、魔道具の調子がおかしくなった時に誰がメンテナンスできるのでしょうか?」

メグが答える。

「私ができる」

「メグさん以外に、王都に何名ぐらいいるのでしょう」

ランペルツォンが答えた。

「正確には分からないが…
 上位ランクの魔導士、となると多くはない。100人はいないだろう」

ヒロが話す。

「とても、メンテナンスができる人が少ない。
 そういうことですね…?」

ランペルツォンがいぶかしむように答えた。

「まぁ、そういうことになる」

ヒロは、数秒沈黙した。
そして、話を切り出す。

「私としては、その案には賛同できません」

「どういうことだ?
 メンテナンスできる人は少ないかもしれない。だが、いないわけじゃないんだぞ?」

「いえ…誰もが分からない、簡単にメンテナンスできない、それだけで危険なのです。
 メグさんの優秀なのは知っています。
 ですが、永続的にメグさんのような魔導士に頼らなければならないものでは、いけないのです」

「意味が分からない!
 優秀だからメグをプロジェクトに加えたんだろう!?
 何をいまさら言っているんだ!?
 お前の言う、”プロジェクトの利点”は各種の専門知識を持った人間を使えるということだと、私に言ったじゃないか!
 やはり、ヒロ、お前は部外者…複雑すぎる制御は怖くて手を出したくない、失敗したくない、そういうことなのか!?」

「ランペルツォンさん。
 私は、メグさんが失敗するなんてこれっぽっちも思っていません。
 むしろ、必ずマーテルさんとメグさんならばどんな複雑な魔道具も作ってしまう、そう思っています」

「ならば、なぜ…」

「上位ランクの魔導士しかメンテナンスできない。
 その時点で、運用の費用は増えます。
 運用とは、兵器を兵器として使えるように維持していくことです。
 調子が悪くなった時に、毎回上位ランクの魔導士に依頼するのと、どうなるか…。
 リーガルさんが、黙っていないでしょう」

「費用は、かかる…か。
 だが、それでも王都を守るために、高性能な兵器は必要だ」

「いえ。
 王都を守るためには、もっとシンプルな機能の兵器でなければならないのです。
 ゾームがあと5年襲い続けてきたら?
 兵器はメンテナンスを続けなければなりません。国庫を圧迫し続けるでしょう。
 もっと言えば…100年後」

「100年後?」

「ええ。
 100年前も、今回のゾームのようなモンスターが王都に現れたという記録があります。
 もし、100年毎に現れるモンスターだったら?
 100年後に、このメグさんとマーテルさんが作った超複雑な魔道具を、再現できる人がいるのでしょか?
 プロジェクト目的は”ゾームから王都の人々を守る”なのです。
 それは、一過性のものではありません。
 100年後にも設計図があれば作れるものにしたい」

100年後には新しい魔法や技術ができているかもしれない。
だが、正直言ってこの世界の技術革新の速度は、ヒロが元居た世界に比べて格段に遅い。
そう考えると、100年後も同じような対策で挑むことになる可能性はある。

「ヒロ、お前は…
 100年後のことまで考えているというのか。
 プロジェクトの達成条件は、三度の満月、それぞれで犠牲者を3人以下にすればよいだけだというのに…」

ランペルツォンが目を見開いてヒロに言葉を投げかけた。

「正直、100年後のことまで考えたプロジェクトは初めてですけどね。
 確かに、プロジェクトの達成条件はおっしゃる通りです。
 ですが、その目的は何かと言えば、ゾームから王都を守ることです。
 三度の満月さえ耐え忍べばプロジェクトは解散できるかもしれませんが、その先もゾームに対抗し続けることができなければ、結局意味がない。
 その場しのぎでプロジェクトを完了させては、真摯ではないですよ」

プロジェクトの目的とは、一過性のものと継続性のものがある。
例えば、これまでにない革新的なメガネを作る、という目的であれば、それは一過性だ。
メガネを作って市場に投入すれば終わる。

だが、安定して新しいメガネを作り続ける仕組みを作る、という目的であれば、継続性のある目的となる。
この場合は、プロジェクトで仕組みを作った後も、その仕組みの運用は続いて行く。

今回のゾーム討伐は、継続的にゾームから犠牲者を減らす仕組み作りだ。
継続性のある目的なのだ。

プロジェクトが解散した後も、その目的が達成され続けるように、考えなければならない。
でなければ、一瞬は目的が達成できる急場しのぎの仕組みを作ってしまう。
プロジェクトマネージャーが逃げ腰だと、早くプロジェクトを終わらせたいがために、継続性を考えない場合が良くある。

ヒロが元いた世界でも、継続性を無視した、制御が複雑なシステム開発は多く目にした。
いわゆる、ブラックボックス化したシステム。
作った人しかわからない、属人化した仕組み。
そんなシステムは、次の世代に問題を残す。

だからこそ、プロジェクトマネージャーはプロジェクトに最も真摯に向き合わなければならないのだ。
ヒロは、それを強く意識していた。

 

ランペルツォンは上を向き、黙った。
そして、ヒロに再び語り掛けた。

「分かった。
 他の案を検討しよう」

マーテルが割って入った。

「他の案って言っても…魔道具の制御はどうしましょう?
 ヒロさんが複雑な制御を嫌うのであれば、簡単にサンダーボルトの発動位置制御する必要がありますが、できますかねぇ…?」

ヒロがうなった。そして、メグに問いかける。

「確かに、そうですよね…
 メグさん、矛の形を変えたり、兵器の形状が変わるとしたら、簡単にサンダーボルトの発動場所を制御する方法があったりします?」

メグが言葉を返す。

「複雑な制御を減らすなら、魔道具と矛を直接引っ付けてしまえばいい。
 矛に魔道具がある場所をサンダーボルトの発動場所にすれば簡単」

その言葉に、マーテルが焦ったように言う。

「いや、魔道具は結構デリケートなものですよ!?
 矛に付けて一緒に飛ばしたりしたら、変なところにぶつかっただけで壊れてしまいますよ…」

「いや、待て」

ランペルツォンが言葉を投げかけた。

「電撃を通す線を兵器の本体と矛でつなぎ、その線を通じてサンダーボルトを流せばどうだ?」

マーテルがはっとした顔をした。

「おお、魔法制御プログラムではなく、物理的に導線を作って制御する、ということですね。
 そのほうが、確かに簡単です。
 なまじ詳しいと、そんな単純な方法は思いつかないもんなんですねぇ」

結局、物理的な線を矛と兵器に繋ぎ、サンダーボルトを導線を通じて流すという仕組みで確定となった。

会議が終わった。
ヒロは、メグとマーテルの案を潰してしまった点を懸念していた。

が、マーテルはケロっとした顔で去って行った。
複雑な制御の魔道具、というのも彼にとって面倒だったのかもしれない。

一方で、メグが、少し悔しそうな顔をしていた。
ヒロは、他のものが去ったことを確認してから、メグに話しかけた。

「メグさん。
 …怒ってますか?」

「怒ってない。
 ただ、歯がゆい」

「歯がゆい?」

「はやくゾームを倒して、エルザスのことを突き止めたい。
 そのためなら、私は何だってする。
 でも、ヒロがいうみたいに私の魔法は複雑なものが多い。
 力になれない…
 そう思うと、歯がゆい」

ヒロに、メグの苛立ちが伝わってきた。
メグにとって、ゾームは兄に何が起きたのかを知る、唯一の要素だ。
はやく、ゾームに接触し、なんらかの情報を得たいはずだ。
だが、満月の夜に備えるしかない今の状況で、メグができることは兵器開発に全力を注ぐことだけなのだ。

ヒロはメグに申し訳なさを感じた。
同時に、メグの力を活かしきれていない自分に苛立ちを覚えた。
メグの実力はこのプロジェクトには宝の持ち腐れかもしれない。

プロジェクトから、抜けたいですか…?

ヒロはそう聞こうと考えた。
だが、それこそゾームという手掛かりからメグを遠ざけることになる、最悪の選択肢だ。
プロジェクトというエネルギーの向け先がなければ、メグが湿地帯の洞窟に単身で突入し、命を落としてしまうかもしれない。

ヒロはプロジェクトマネージャーとしてのふがいなさを嘆いた。

 

★つづく★