凡人が成果を出すための習慣

残業ゼロで成果を出すには、どうしましょうか?

異世界×プロジェクトマネジメント 第13話『テストすべし』

プロジェクトマネジメント知識をライトノベル感覚でお伝えする小説です。
初めからご覧になりたい方は、こちら↓から

異世界✕プロジェクトマネジメント カテゴリーの記事一覧 - 凡人が成果を出すための習慣

 

 

そして、次の満月が三日後に迫った。
十中八九、ゾームは襲ってくるだろう。

ゾーム討伐の仕組みとしては、試作品が出来上がった。

試作品となる兵器が3基。
1メートルほどの鉄の矛とを搭載した、高さ1.5メートルほどの兵器だ。
木材と石で作られた台座。
その上に鋭い矛、ゾームが吐き出す糸を防ぐためのシールド、箱に収まった魔道具がついている。
台座のおかげで自立する。
重いので、運ぶには大人二人で運ぶ必要があるが、運べなくはない。
ゾームの位置に合わせて移動できるよう、軽量化も図った結果だ。

ランペルツォン、メグ、マーテル。主にこの3人が設計を行い、建築ギルドや商工会の協力を経て完成した。

ただ、試作なので3基しかない。
ゾームは何体で来るかは分からない。
前回は15体だったが、増えるかもしれない。

そう考えると、3基では足りない。
兵器1基で同時に討伐できるゾームは一体のみだからだ。

足りない兵器を補うため、前回の満月の夜同様、討伐隊が必要であった。
ジュドーに指揮をとってもらい、討伐隊を引き続き訓練してもらった。
メグやジュドーの戦闘力が生かせるよう、彼らとの連携も考慮したトレーニングを行ってもらっている。

ヒロとレインは、ギルドの他の業務がある中で、プロジェクトマネジメントを行ってきた。

結果的に、メグには討伐隊の訓練と兵器開発と両方のタスクがあったので、最も忙しかったに違いない。
しかし、メグは兄の仇、エルザスを探すカギとなるゾーム討伐に懸命に取り組んでいた。
ヒロは、とても感謝している。

次のゾームの襲撃において、ゾーム討伐の仕組みを試す。
これは、プロジェクトの成果を測る大きなポイントだ。
設計、構築で完成した試作品をテストする。
このプロジェクトが意味あるものだったのか。それが分かる瞬間である。

ヒロは、緊張していた。
元の世界のプロジェクトと異なり、人間の命がかかっている。
すでに、前回の満月では想定内とは言え被害が出た。
二度目の満月だからと言って、普通の人間に慣れるものではない。

 

満月の夜を迎える。
その日の夕方。
兵器を城壁前に移動させつつ、準備し、討伐隊も配置に付こうとしていた。
王都シュテール城壁前に広がる荒野。

夕日が沈みゆく最中、ジュドーが遠くから迫る土煙を発見した。

「おい…もう来たぞ!
 満月はまだ上がってないってのに、えらく時間が早いな…!」

一斉にヒロも、討伐隊もジュドーが指さす方向を見た。

「確かに…ゾームが来ています!」

討伐隊の兵士が叫んだ。
ジュドーが指示を出す。

「配置につけ!」

ヒロが兵器の位置を確認し、ジュドーに言う。

「ジュドーさん、兵器がまだ城壁前に到着していません!
 ジュドーさん、メグさん、討伐隊でまずは対応をお願いします!」

早い。満月の夜に魔力が上がる。
それがゾームだとして、満月の直前に襲撃してきた。
まるで、襲撃するそのタイミングに魔力が最大となることを計算しているかのようだ。

ゾームはあまり知能が高くないように見えたが、賢い個体がいるのかもしれない。

徐々に姿が見えてきたゾームは、数も以前より多い。
何体であるかヒロには数えられないが、視覚を飛ばす魔法で確認した討伐隊によれば、18体ということだった。

兵器が間に合う前に、ジュドー、メグを先頭に討伐隊とゾームの群れが激突した。

ジュドーは剣技で、メグは魔法で、ゾームを倒す。
討伐隊も、先頭のジュドーとメグを避けたゾームに対して応戦する。
アースバインドをかけ、剣や槍をさし、サンダーボルトを放つ。
かなり洗練された動きになっていた。

それでも、ゾームの数が多い。
ヒロは城壁付近で戦いを眺めていたが、遠目で見ても重傷となった人間が一人、出ているのが分かった。

「兵器の準備、完了しました!」

ヒロの横で、討伐隊の兵士の声がした。

そのまま、討伐隊のメンバーは兵器を二人で担ぎ、ゾームの前にかけだした。
3基の兵器なので、6人がゾームの方へ参戦する形となる。

「お願いします…!」

ヒロは祈った。もう、今のヒロにはそれぐらいしかできない。

 

3基の兵器の内、一基を二人で運ぶヘックスとウィル。
兵器を担いでゾームへ走っていた。
二人は、兵器でゾームに挑むことを何度もイメージトレーニングをした。

「あのゾームへ行くぞ、ウィル!」

「はい、ヘックス先輩!」

ゾームが一体、討伐隊に横から迫ろうとしていた。
このままでは、討伐隊の一組がゾームによって壊滅する。そうでなくても、3人がばらけるだけでゾームには対応できなくなる。
よって、まずはそのゾームを兵器で討伐することに決めた。

ゾームから少し距離を置き、二人は兵器を地面に置いた。

「距離OK!
 魔道具発動!」

ヘックスが魔道具を操作する。
操作と言っても、赤、黄色、緑のクリスタルがついているだけなので、迷うことはない。
ヘックスが緑のクリスタルに手を振れ、アースバインドを発動させる。

魔道具から緑の光が走り、兵器の前方の広範囲に、アースバインドが発動する。
ゾームの足がからめとられた。

「やりましたね!先輩!」

「まだまだ、ここからだ!
 矛射出!」

矛の射出は赤いクリスタル。
ロックオンの魔法が発動し、矛を弦を用いて射出する。
矛の射出だけやけに原始的だが、費用も抑えられるし、シンプルな方が良いという設計結果だ。

ヒュン

ゾームへ向けて矛が鋭く飛んでいく。

ザシュッ!

「よし、ゾームに刺さった!」

ヘックスは興奮している。
続いて、サンダーボルトの発動。

矛には魔力を通す導線が黄色いクリスタルとつながっている。
そのクリスタルにヘックスは手を振れ、サンダーボルトを発動。

バリバリバリッ!

その瞬間、雷撃がクリスタルから矛に伝わり、ゾームはうなだれて動かなくなった。

「おお!成功だ!
 あとは首をとればおしまいだな!」

すでにウィルが首を刎ねに向かっている。
数秒後、ウィルはゾームの首をとり、掲げた。

***

ヒロはそれを城壁付近から眺めていた。

「…ありがとうございます!」

兵器は、成功と言える。
思わずヒロは、聞こえない距離にもかかわらず礼を言った。

他の2基の兵器も、ゾームを討伐している。

充実感を感じる。
これは、大魔法が使えるかもしれない。
ヒロは戦場に身を投じることにした。

ヒロがゾームの元へ向かう最中、ゾームの首を掲げるウィルの後ろから大きなゾームの影が現れた。

「おい、調子に乗るな」

ゾームから、声が聞こえた。

 

距離のあるヒロにもはっきり聞こえる声だった。
やけに響くガラガラ声。
人間の声だが、人間の声じゃない。

「え!?ゾームがしゃべっ…」

ウィルがそう反応した瞬間、人間の言葉を話すゾームが太い腕を裏拳のようにウィルへ放った。
ウィルは腹に一撃を食らい、5メートルはあろうかという距離を飛ばされた。

「ウィルさん!」

ヒロはとっさに叫んだ。
ウィルはただではすんでいないだろう。
戦闘不能であることは確実だ。

一体あのゾームは何者なのか。
人間の言葉を話す。知能があるということだ。
今日、時間を早めて襲撃したことも、奴の考えかもしれない。

近づくにつれ、ゾームの姿が確ヒロにも認できる。
蜘蛛の体にの上に、人間の上半身。その上半身は屈強な筋肉に覆われた男の体だった。
スキンヘッドの頭に、入れ墨のような紋章が入っている。
体には鎧を装着しており、兵器の矛は通りそうにない。

ヒロが到着するより先に、メグがその一回り大きなゾームの前に立ちはだかった。

「エルザス…!」

メグは、仇の名前を言った。
このゾームが、エルザスということなのか。

ゾームが答える。

「お、俺の名前を知っているのか。
 俺が人間だったころの知り合いか?」

「兄さんをどうした!」

「兄さん?
 人間は一杯食ってきたからな。
 すまんがいちいち覚えてない」

メグがファイアボールをゾームに放つ。
だが、バリアにかき消された。

「そのお前のバリア。
 それは、兄さんが得意だった魔法…!」

「お、おお。
 あの魔導士の家族か。
 いやぁ、あいつを食っておいてよかったぜ。
 このバリアは役に立っているからな」

「兄さんはやっぱり…
 お前は…お前は何者だ!?」

「俺の名前を知ってるなら、分かるだろ?
 コロシアムの格闘家、エルザス様よ。
 もっともっと強くなって、シュテールの人間を食い殺す。
 そのためにパラサイトスペクターの力でいろんなものを食って準備してきたんだぜぇ?
 それなのに、やけに俺のしもべどもの蜘蛛がやられるから来てみたら…
 こざかしい方法で倒してんじゃねぇか」

「目的はなんだ!?
 すぐに殺してやる!」

メグは兄の死を再認識し、頭に血が上っている様子だ。

「はぁ?
 なんでそこまでいろいろ話す必要があるんだ?
 今すぐお前は死ぬのに。
 俺に食われて」

エルザスの後ろから、さらに2体のゾームが現れた。

二体とも、エルザス同様、鎧を着ている。
これまでの方法では倒せないため、兵器も討伐隊も避けていた。
雰囲気も他のゾームと何か違う。

「こいつらは、俺が手塩にかけた特別な蜘蛛ちゃんたちだ」

 

 

メグの元にジュドーとヒロが駆けつける。
これまでとは雰囲気が異なるゾームを見て、ジュドーがヒロに聞く。

「相手は3体。
 これまでのゾームよりもレベルが高そうだ…
 ヒロ、大魔法は使えそうか?」

ヒロは充実感を感じたものの、『鎧を来たゾーム』の登場によりこれまでの仕組みでは討伐できないことを知った。
そのため、限られた魔力しかチャージされていないと感じていた。

「使えそうですが…
 いつもよりも威力が低いかもしれません。
 一体ぐらいなら、確実に倒せるかと」

「なら、ちょうど3対3だな。
 ヒロは右のやつ。
 俺は左のやつ。
 メグはエルザスに飛び掛かって行っちまうだろうから」

とうとう、プロジェクトマネジメントではない部分である”戦い”においても、ヒロは戦力の一部になってしまったようだ。
ヒロにとっては、貢献出来て嬉しいやら、怖いやらで複雑な気持ちだった。

エルザスを含む、3体の鎧を来たゾーム。
相対するのはメグ、ジュドー、そしてヒロ。

ヒロは覚悟を決めて、自分の目の前のゾームを見た。

屈強な上半身を持つゾーム。

ヒロは、すぐに自分にできることを考えた。
今の魔力で放てる大魔法が、頭に思い浮かぶ。
前回の満月では時を止め、かつ消滅の魔法を唱えたが、今回はそこまでの魔力はなさそうだ。
とは言え、腐っても大魔法。
それでも今のヒロは、この世界の誰よりも高度な魔法が使える。

目の前のゾームを倒す方法はいくらでも思いついた。
だが、ヒロはメグとジュドーが気になった。

この強敵に思えるゾームに対して、彼らは対応できるだろうか。
特にメグは、怒りに我を忘れているかもしれない。
メグをちらりと見ると、息が上がっており、とても冷静には見えなかった。

ヒロの魔力は限られている。
目の前のゾームを倒すことに全ての魔力を使って良いものか。
そう悩み始めると、なかなか行動に移せなかった。

3人とゾームはしばらくにらみ合っていたが。
ジュドーに相対するゾームが初めに攻撃を仕掛けた。
ジュドーは攻撃をかわし、すぐに剣技でゾームの足を一本、切り落とした。

ジュドーが優勢に見える。だが、これまでのゾームとは異なり、動きが早く、力も強そうだ。
やはり強い個体のゾー厶なのだろう。
鎧を着ているため、胴体に攻撃がうまく通らないという点もある。
ジュドーは苦戦とは言えないまでも、余裕はなさそうである。

ヒロの目の前のゾームも距離を縮めてきた。
ヒロは戦いに慣れてはいない。
プロジェクト運営と異なり、迅速な判断ができない。

ヒロは、ゾームとは明後日の方向に走り出した。
とりあえず、逃げながら考えることにしたのだ。

 

★つづく★