凡人が成果を出すための習慣

残業ゼロで成果を出すには、どうしましょうか?

異世界×プロジェクトマネジメント 第6話『要件定義するべし 中編』

プロジェクトマネジメント知識をライトノベル感覚でお伝えする小説です。
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ヒロは目が覚めた。

テントの外に顔を出すと、ジュドーが近くにいた。
もう、日は落ちていた。

湿地帯に自然の明かりはないので、真っ暗である。
小さな明かりを放つランプがテントの近くにあるものの、モンスターから見つからないように、最小限の明かりでほんの近くしか見えない。
ジュドーはテントを背にして、双眼鏡のようなものを手で持って洞窟がある方を見ている。

「ジュドーさん、長く休ませていただいたみたいで、すいません」

ジュドーが洞窟の方から目を離さずに答えた。

「ヒロ、起きたか。
 ちょうど良い。
 今、洞窟からゾームっぽいやつが出てきたぞ」

「え!」

「しっ!声を落とせ」

そう言いつつ、ジュドーは双眼鏡のようなものをヒロに渡した。
双眼鏡を除くと、あたりは暗いというのに昼間のようにあたりがはっきり見える。
魔道具なのだろう。

ヒロは洞窟がある方を見た。

そこには、蜘蛛と人間が合わさったモンスターがいた。
大きな黒い蜘蛛。
その頭がぱっかり割れて、人間の女性の上半身がにょっきりと生えている。
ケンタウロスの蜘蛛バージョンと言えばよいだろうか。
ただ、ケンタウロスと違って、黒い蜘蛛の体に相対し、人間の体は青白く、入れ墨のような紋章が体に描かれている。
地面から人間部分の頭の位置までは、3メートルはあろうか。とても巨体である。

とても気色の悪い見た目のモンスターだった。
ヒロは、眠気が一瞬で覚めた。

蜘蛛の頭にある目も、人間部分の目も、赤く光る目である。
村人が見た赤い光とは、この目のことだったのだろう。

「よし、これからあいつを洞窟から引き離す。
 洞窟の前だと、他にもうじゃうじゃ出てくるかもしれないからな。
 仲間を呼ばれないように、あの一体だけを単独行動させる作戦を皆で考えたんだ。
 そこで、ヒロにお願いがあるんだが…」

「は、はい…」

ヒロは、なんだか嫌な予感がした。

「サレナ、俺とメグにも暗視の魔法をかけてくれ。
 マーテルは、魔道具で暗視できそうだな」

ジュドーは近くにいるサレナ、メグ、マーテルを見ながら言った。
マーテルは目をすっぽり、隙間なく覆う水中眼鏡のような黒い眼鏡をしていた。
ハンズフリーで使える暗視ゴーグル的な魔道具らしい。
ジュドーはサレナから魔法をかけられたのち、ゾームから目を離さずにヒロに話しかけた。

「さて、作戦を話すぞ…」

数分後、ヒロはゾームの前に放り出された。

 

こんなもん、プロジェクトマネージャーの仕事じゃないぞ!
ヒロはゾームの目の前でそう思った。

作戦は、ヒロがおとりになるということだった。

知能が高いモンスターの場合、強そうな相手であれば仲間を呼ぶ。
できるだけ、弱い人間がおとりになることが、一体だけをゾームの巣と思われる洞窟から引き離す成功率を上げる。

その弱い人間は、明らかにヒロである。
もし仲間を呼ばれたなら、撤退するという手はずだ。

そうして、ヒロはゾームの前に一人で立たされた。
ゾームは夜行性で暗視が効くのだろう。
ヒロを、すぐに見つけた。

ヒロは、ゾームと目が合った。
蜘蛛の目と、人間の体に付いた目、両方と。

森でライニャスやキラーマンティスに襲われたときに続き、死と隣り合わせという恐怖。
だが、ヒロはこのパーティで自分しかできない役割なのだから仕方ないと考え、正直嫌だが受け入れた。

チームで活動するメリットは、それぞれが各自の専門性を活かすことで相乗効果を得ることだ。
ヒロにはヒロの、一般人であるという専門性が、このパーティーにおいてはあるのだ。プロジェクトマネジメントは関係ないが。

「うおー!」

ヒロは、ゾームに背を向けて逃げた。
ヒロに下された指示は、ゾームに自分を見つけさせ、洞窟と逆方向に逃げること、である。
そうして、ヒロを追ってくれれば洞窟から遠ざけることができる。

後ろを振り返ると、ゾームがすごい勢いで追ってきていた。
速い。すぐに追いつかれそうだ。
蜘蛛の頭部分が大きく横に割れた。
とんでもない大きさの口、のようなものだ。
これで、村の人々を捕食したのか。

ビュッ!
何か音が聞こえた。
糸がヒロの横を通り過ぎた。

サレナに言われたが、蜘蛛型のモンスターは糸を吐き出すことが多いという。
彼女の予想どおり、ゾームも糸を吐くということだ。
絡め取られると、動けなくなる。
だから、少しでも止まれば狙い撃ちされる。
ヒロはジグザグに走り続けていたこともあり、糸を逃れた。
とは言え、こんな攻撃を避け続けられるのか。

死ぬ。

また、森で味わった死への恐怖。
本当にあの冒険者たちは助けてくれるのか?
いや、そんなこと考えてる場合じゃない。
もっと全力で走らないと追いつかれる。

頭にいろいろなことがよぎっている最中、体が軽くなった。
足が速くなり、移動速度が上がった。
サレナが予定通り、ヒロにスピードアップの魔法を唱えてくれたのだろう。

「でも、こんなギリギリでなく、もっと早くに使って欲しかった…」

ヒロはぼやきつつ、全力で逃げ続けた。

しばらく走り、ヒロの体力も限界を迎えつつあった。

「もうだめ、もうだめ!死ぬ!」

ヒロは叫んだ。

その時、後ろのゾームの鳴き声のようなものが聞こえた。
金切声。
ヒロは倒れ込みながら後ろを見た。

ゾームがしびれるように痙攣している。
サレナが横から現れた。

「ヒロ、よく頑張ったわ。
 もう十分、洞窟から離れた。
 仕掛けた痺れトラップにうまくかかった!ナイスよ」

メグが同じく現れ、魔法を唱える。

「ファイアボール!」

火の球がゾームへ飛んでいき、ぶつかってはじけた。
だが、ゾームに当たる直前ではじけたようだ。
同時に、ゾームが紫色の薄い光に包まれている。

「バリア!?魔法、効いてないかも」

メグが言い放った。
続けて、メグは魔法を放つ。
氷の魔法、雷の魔法、風の魔法。
しかし、どれもバリアに阻まれてダメージを与えられていなさそうだ。

「兄さん…レン兄さんがよく使ってたバリアの魔法に似てる。
 下位の魔法は、たぶん効かない」

メグが杖を撫でながら言った。
サレナが叫ぶ。

「トラップがそろそろ解けるわ!」

「今のうちに機動力を削ぐ!」

ジュドーが叫ぶとともに、キラーマンティスを倒した時の技で、ゾームの足に切りかかる。

「炎龍斬!」

足の半分ほどを切ったところで、剣が止まった。

「硬い!一発じゃ切れないな」

ジュドーは剣を引き抜き、ゾームと距離を取った。
ゾームのしびれが解かれ、攻撃態勢に転じたからだ。

「こうなりゃ、最強の技で…」

ジュドーはゾームの吐き出す糸を、剣で薙ぎ払いつつ、腰を落として構えた。
メグも、続けて言う。

「私も、得意な雷の上級魔法を」

だが、ヒロが二人を制した。

「ちょっと待ってください!
 その技や魔法は、魔道具で再現できるものなんですか!?」

その質問に、サレナの後ろに構えているマーテルが答える。

「まぁ、レベルが高すぎて無理でしょうね。
 できたとしても費用がかかりすぎるかと」

「ならば、ダメです、ジュドーさん!メグさん!
 その技で倒しても、ゾームの倒し方が明確にできません!」

「倒し方って、魔法で一撃、じゃだめなの?」

メグがヒロに不思議そうに尋ねる。

「ダメです!
 せめて、魔道具で代用できるような方法を組み合わせて倒さないと、ゾームを倒す兵器を作ることができません!」

ヒロはジュドーを制した。
このプロジェクトの要件定義とも言える、”ゾームの調査”においては、兵器を使って安定的にゾームが倒せる状態にするために必要なものが何であるかを確認しなければならない。

ヒロの元の世界のプロジェクトを思い出す。
多くのプロジェクトで、予算や制限がある。
それらを無視した要件を定義しても、実現できないことを実現しようとするプロジェクトになるだけだ。
例えば、どうあがいても半年かかることを三ヶ月で実現しようとしたり、明らかに想定した費用では実現できない、夢を盛り込んだ要件を作ったりしてしまう。

前提条件を元に、現実的な要件を定義しなければ、プロジェクトは頓挫したり、追加でとんでもない額が必要になったりするのだ。

ジュドーやメグはとてもレベルの高い冒険者だ。
彼らの全力の魔法や技をもってすれば、ゾームも倒せるかもしれない。
だが、ゾームが襲撃してくるたびに、そんな強い冒険者に頼るというのは限界がある。

彼らに負担がかかりすぎるし、何らかの事情で王都シュテールを離れれば、終わりだ。

だからこそ、倒す方法を兵器という誰でも使えるもので実現しなければならない。
その兵器に必要な要件を見極めるには、もっと着実な討伐方法を検討する必要があるのだ。

そうこうしているうちに、ゾームは襲い掛かって来る。
ジュドーが剣を舞うように使い、ゾームの前足や大きな横に割れた顎での攻撃をさばく。

ヒロがサレナに問いかけた。

「魔法が効きづらいモンスターの、よくある討伐方法とかないんですか?」

「そんな相手には、物理攻撃が鉄則よ。
 でも、硬いから、それもなかなか難しそうね…。
 ジュドー、人型の部分を狙ってみて!」

サレナがジュドーにアドバイスした。

「ああ、狙ってるさ!
 位置が高いから、少し距離を置いて突きを出す!
 メグかサレナで少し足止めできるか!?」

「分かったわ」

サレナが答えた後、地面に紙の札のようなものを置き、手で押さえつつ叫んだ。

「簡易トラップ!沼変化!」

ゾームの8本ある足のうち、前の2本の足があるあたりの地面が、急にぬかるんだ。
ゾームはバランスを崩し、前のめりになった。
その隙に、ジュドーはゾームから少し距離をとり、腰を深く落とした。

「ヒロ、今から使う技はそんなにすごい技じゃないからな!使っていいだろ!」

ジュドーはそう言うと、剣を持った右手を引き、突きを放つ構えをとった。

「雷迅突(らいじんづき)!」

ジュドーはゾームへ、真っ直ぐ飛び掛かった。
ボウガンから矢が発射されるが如く。
ちょうど、ゾームの上半身、人型部分の心臓めがけて突進する。

ズシャッ!

剣が心臓部分に刺さる。

「よし、人間の部分には攻撃が通るよう…」

ジュドーがそう話す途中で、ゾームが人部分の腕を振るいあげ、ジュドーを攻撃しようとした。

「うおっと!」

ジュドーはすんでのところで回避し、地面に着地した。
剣がゾームの胸に刺さったままだ。
だが、ゾームは動き続けている。

「ジュドーさん、スペアの剣をどうぞ」

マーテルがジュドーに剣を投げ渡した。

「人型部分の心臓は、急所というわけではないのね。
 今度は頭、狙ってみる?」

サレナがジュドーに言った。

「軽く言ってくれるなぁ」

ジュドーは再びジャンプして切りかかる。
頭を狙おうとしたが、人型部分の両手で阻まれた。
手は装甲が固いらしく、切ることができなかった。

「くそっ!
 もっと強い技を使えば、あんなもん切り伏せられるってのに!
 ヒロ、どうすればいいんだ!?」

急に振られたヒロは、焦った。
戦闘に詳しくないのだから、この状況で指示を求められても困る。
だが、ヒロは恐る恐る答えた。

「えっと…
 ゾームの胸に刺さった剣に、メグさんの雷の呪文を当てるとか…?」

一同が黙った。
ヒロはさらに焦る。

「す、すいません。
 素人の発言ですから、気にしないでください!」

「なるほど。
 悪くない考えだわ。
 魔法を防ぐバリアは表面にあるようだから、剣を通して体内に魔法を送り込めば確かに…」

サレナから、ヒロの予想に反して肯定的な反応が返ってきた。

「確かに、やってみる価値はあるかも」

メグが言う。
ジュドーも、うなずいている。

「では、少し目くらましをして、その間にメグさんに雷の魔法を詠唱してもらいましょうか」

マーテルはそう言って、小さな球を取り出し、ゾームに投げつけた。
煙幕がゾームに当たった球からもくもくと吹き出し、あたりは暗視越しでも何も見えなくなった。
だが、ゾームの赤い目の光が煙のなかで不気味に輝き、ゾームの位置だけは分かる。
ヒロの横で、メグの魔法詠唱の言葉が聞こえる。

煙が晴れてきたころに、メグは杖を高く挙げ、叫んだ。

「サンダーボルト!」

稲妻がゾームの頭上から落ちる。
見事に、胸に刺さった剣に命中した。

キィィィィ!

大きなゾームの金切り声。
少しゾームはじたばたと手足を動かした後、足の力が抜け、蜘蛛の胴体を地面に付けた。
そして、人間の上半身はうなだれるように前に倒れた。
ビクッビクッとまだ動いているが、こちらを襲う様子はなかった。

ジュドーは近づき、さらに念入りにと人間部分の首を跳ねた。
ようやく、ゾームは完全に動かなくなった。

「やるじゃないか。
 ナイスアイディアだったぞ、ヒロ」

ジュドーがヒロの肩をたたきながら言う。

「あ、ありがとうございます」

ヒロはそう答えつつ、めまいがして地面に座り込んだ。
おとりとなって全力でゾームから逃げ、そのまま緊張状態でゾームとの戦いを観察し続けたのだ。
集中力が切れて、力が抜けた。

「お疲れ様。
 ただ、ここに長居していると仲間が来るかもしれないわ。
 ゾームの一部を持って、さっさと見晴らしの良い場所まで抜けましょう。
 なんにせよ、あなたは戦ってはいないけど、大活躍よ」

サレナがヒロに手を差し伸べつつ、そう言った。

 

 

パーティーは王都シュテールに戻った。

ヒロは今、要件定義書の作成に取り掛かっている。

ゾームを倒した後、パーティはそのまま湿地帯を抜け、見晴らしの良い岩陰でキャンプを張った。
ヒロは、キャンプですぐにゾームとの戦いについてノートにメモした。

先の戦いは、ゾームの倒し方を知るための戦いであり、兵器の要件定義だ。
この戦いでどうゾームを討伐したのかは、よくよく記録しなければならない。
そして朝まで休み、パーティーは帰路についた。

王都に戻ってからは、要件定義の旅で得たゾームの情報を王宮に伝え、過去の文献などからこのモンスターについてのさらに詳細な情報がないかを確認してもらった。

結果として分かったのは、ゾームというモンスターは、”パラサイトスペクター”という実態のないモンスターが生み出すものということだ。

パラサイトスペクター。
生物に寄生する、実態のない魔物である。
ヒロはそれを聞いたとき、幽霊を連想した。
パラサイトスペクターは、数が少なく、モンスターとしての危険度は低い。
というのは、自我が無く、あまり目立った悪さをしないためだ。

虫、動物、まれに人間にも寄生する。
寄生された生物、体に紋章のようなあざが現れる。
ヒロはゾームの上半身の人間部分に紋章が描かれていたのを見たが、これだったのだろう。

そして、寄生されると宿主の意識はなくなり、パラサイトスペクターによって無意識に行動をする。
だが、パラサイトスペクター自身にもあまり行動目的が無い。
人間が寄生された場合、夢遊病のように歩き回ったり、突然叫んだりと異常な行動をするようになる。
とは言え、事故的に被害がでることはあるが、パラサイトスペクターが故意に人に危害を加えることは少ない。

対処法も明確で、神聖魔法という種別の魔法で、宿主からパラサイトスペクターを追い出すことができる。

もう一つ、パラサイトスペクターには特殊な性質がある。
それは、捕食した者の特徴を宿主に埋め込む、ということだ。

例えば、オオカミにパラサイトスペクターが寄生したとしよう。
パラサイトスペクターは宿主の空腹を察知して、オオカミがいつも食べるものを食べる。
シカを食べたとしよう。
そうすると、シカの角が生え、足が速いオオカミになる。

羽が生えたライニャスとか、熊のようなゴブリンなど、複数の生物の特徴が合わさったモンスターがいるなら、パラサイトスペクターの仕業であることが多い。
特性は捕食したものが無限に反映されるわけではなく、数個だけしか反映されないが、とんでもないモンスターが生まれることもある。

だが、パラサイトスペクターは個体数が少ないため、あまり大きな問題にはなっていない。

また、パラサイトスペクターは満月の夜に魔力が上がって活動的になるという特徴もあり、今回のゾームの特徴と合致している。

今回目撃したゾームが、王国内の記録にある100年以上前にシュテリア王国内で目撃されたというゾームと全く同一のものかはわからない。

だが、どちらのゾームも、シュテリア王国内では珍しくないモンスターであるジャイアントスパイダーにパラサイトスペクターが寄生したものではないかと想像される。
そして、少なくとも今回のゾームは、もっと体の大きなモンスターを捕食し、元々のジャイアントスパイダーよりも大きくなった。

さらに、湿地帯でヒロが見たゾームは、人の特徴を持っていた。
ということは、人を捕食したのだ。

ひょっとすると、村で捕食した人の特徴として、あの女性の上半身が出来上がったのかもしれない。
もしくは、パラサイトスペクターが人に寄生し、ジャイアントスパイダーを捕食しということも無くはない。

ただ、良く分からないのは魔法を無効化するバリアを使ったことだ。
パラサイトスペクターの討伐方法である神聖魔法。それを防ぐバリア。
バリアを張る生物を捕食したのかもしれない。

だが、都合がよすぎる。
体の巨大化、バリア、腕の鋼鉄化。
パラサイトスペクターは自我がないはずだが、ゾームは自分を有利に強化する生物ばかりを捕食していることになる。

特性を得られる数には限りがあるので、おそらくはこれ以上の特性を得ることはできないだろうが、とても倒すことが困難なモンスターとなっていることは確かだ。

そして、さらに不気味なのは、数である。
パラサイトスペクターの特性上、同じ形の生物が複数いるのはおかしい。
群れとなると、パラサイトスペクターが群れを成し、同じ場所にいる生物に寄生したということになる。
それが、最も不可解なことだった。

王宮の大魔導士ケルンがこう言っていた。

「パラサイトスペクターは、まれに宿主の意識を奪えず、宿主の意識のまま同調して行動することがある。
 もし、今回、悪意を持ったものが宿主で、意識的に群れをなしていたとしたら…
 可能性は低いが、とても恐ろしいモンスターになる」


ヒロはその話を聞いて、このプロジェクトの重大さを知った。

意識的に体を強くしているのであれば、普通のパラサイトスペクターと違い、何かをする目的があるはずだとヒロは考えた。
そのためならば人を食らう。人を食らうことが目的と言う可能性もある。
ヒロが湿地帯で相対したゾームは知能が高いようには見えなかったが、知能を持った親玉がいるのかもしれない。

ゾームを確実に討伐できる兵器が必要だ。

 

★つづく★