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小説:ヒーローの管理職 第25話 仕事の管理の章1

マネジメントについての連続小説です。

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 暗がりから現れた西陣を前に、東條の鼓動は早まった。
 恐怖だ。

 だが、東條は西陣が現れることは、ある程度予期していた。
 南部が生きているのだから、”悪夢の日”に共に爆発に巻き込まれた西陣が生きていることも、想像はできたからだ。
 いつか、西陣がまた攻めてくる。そのリスクを感じ取っていたからこそ、東條はチームの育成に力を入れていたのだ。だが、東條1人の前に、街中で姿を表すとは思わなかった。
 東條は今、異能犯罪者3人に囲まれているのだ。しかも、最強と呼ばれる強さの異能犯罪者に。
 命の恐怖を感じずにはいられなかった。

 だが、怯んでいてはいけない。
 南部は戦うつもりはない、と言っていた。嘘でなければ、東條を始末する以外に、何か目的があるはずだ。
 東條は意を決して西陣に言葉を返した。
「お久しぶりです。西陣元司令官。生きていたんですね。」
 "元"という言葉に、少し力が入った。
「"元"、か。だが、今でも司令官と呼んでくれるか。東條よ。」
「ええ。尊敬していましたから。」
「過去形か。そりゃそうだな。俺は、お前から見れば裏切り者だ。
 4年前は、そこにいる北折がテレポートで俺と南部をテレポートして助けてくれた。南部の左腕は爆弾を持っていたから、移送するわけにはいかなくて、なくなっちまったが。南部はその後、俺の仲間になってくれた。」
「…なぜですか?なぜあんなことを。」
「おいおい、質問が具体性に欠けてんぞ。4年前の話か?それとも最近の話か?」
「両方です!エノトスはあなたがつくったんですか!?」
「まぁ、落ち着けや東條。今日は戦おうってんじゃないんだ。話し合いがしたい。
 正直、ここまでお前が司令官としてできるとは思わなかったぞ。先日の南部と北折の潜入で、全てかたをつけようと思っていた。
 だが、東條…お前はそれを食い止めた。これ以上は争うより、話し合いのほうがいいと思ったんだよ。
 だから、お前…ヒーローアソシエーションの司令官である東條と話しがしたくて、ここにきたんだよ。」
「戦って勝てないから話し合いですか。随分都合が良いですね。でも、私も話し合いで済むならその方がいい。
 では、どういう要件でしょうか。」
「俺のビジョンを、お前に伝えたい。」
 ビジョン。思いがけない言葉が出て、東條は戸惑った。そういえば、南部もビジョンが違う、というようなことを言っていた。
 西陣が東條をじっと見ながら、話を続ける。
「俺は、異能の力をこの地球から無くすべきだと思ってる。
 異能者は、非異能者も異能者自身も含め、全てを不幸にする。」
西陣元司令官のご家族が殺されたから、そうおっしゃっているのでしょうか。」
「もちろん、それは俺にとって衝撃的な出来事だった。その時から、異能の力への憎悪は大きくなったさ。その通りだ。
 でもな、東條。俺はその前から異能の力が嫌いだったのさ。嫌いじゃなきゃあ、異能犯罪者をあんなに捕まえられるわけないだろ?」
「…いえ、理解できません。
 例えば、警察は犯罪者を、つまりは人間を捕まえます。ですが、警察の人々が全ての人間を嫌いだとは思えません。
 異能犯罪者は憎むべき存在かもしれませんが、異能者すべてを憎むことは、理解できません。」
「俺は異能者が憎いんじゃなく、異能の力が憎いんだよ。異能の力がなくなるべきものだって言ってんだ。結果的に異能者がなくなるっていうのと同義だが。
 異能の力は、武器のようなもんだ。武器を与えられた人間は、それを使ってみたくなる。そうして人を傷つける。
 お前たちヒーローは、同じ武器でそれを食い止めているだけだ。あほらしいだろ?その武器自体がなくなれば、全部解決するのに。」
 横にいた南部が口を挟んだ。
「俺は、西陣さんのビジョンに共感したんだ。子供の頃、俺は爆弾の能力を制御しきれず、周りからはさげすまれていた。文字通り、危険物扱いだ。威力はさほどではなかったが、誰も爆発物を意志に反して作るような人間には、近寄ろうとはしなかった。当然だろう。俺だって彼らの立場ならそうする。」
「でも、南部はヒーローとしてその能力の活かし方を見つけたじゃないか。もう、さげすまれるような存在じゃなくなったはずだ。なぜ異能の力をそんなに卑下するんだ!」
「お前の言う通り、俺はヒーローアソシエーションという居場所を見つけた。ただ、それは運が良かっただけだ。昔の俺みたいな境遇の人間は大勢いる。彼らの多くは異能犯罪に手を染める。そんな状況を、俺は無くしたい。だから、西陣さんについて行くことにした。
 4年間、回復を待ち、仲間を増やし、”異能の力を無くす”というビジョン実現のために”石”を奪う機会をうかがっていた。」
 南部の言葉に、西陣が言葉を付け足す。
「まぁ、東條のおかげで失敗に終わったがな。」
「エノトスのコミュニティサイトも、あなたが?」
 東條が尋ねた。
「そうだ。ま、俺はパソコンに詳しくないから、実際にサイトを作っていろいろ記事を書いていたのは北折だがな。」
「そこには、異能の力を無くすような目的は書かれてません。ただ、”石”を奪うように仕向ける嘘が書かれている。」
「嘘も方便というやつだよ。異能の力を無くすために”石”を奪え!と言ってもみんな賛同してくれないだろ?異能者なんて、異能の力を自分の私利私欲のために使い、他の人間を傷つけるような奴が大半だからな。そんな奴らのせいでみんな苦労するんだけどな…。
 まぁ、”石”が異能の力を強化する、と吹聴したらそいつらは勝手にヒーローアソシエーションを襲撃してくれた。我ながらいい案だと思ったぜ。」
 西陣の口ぶりからは、異能の力を犯罪などの非人道的な目的に使う異能者を、心から卑下していることがうかがえた。
 東條が口を開く。
「”石”を奪って、どうするつもりですか?”石”を破壊すれば異能の力がなくなるかもしれない、という研究結果はあります。
 ですが、”石”は強靭な力を持ち、バリアのようなもので守られている。この、”石”自体の異能の力、と言われているバリア能力があることはご存知でしょう?”石”を奪っても、どうしようも…」
「そうでもないんだ。まぁ、始めは”石”を奪ってからなんとか破壊する方法を見つけるか、宇宙にでも打ち上げてしまおうかと考えていた。だが、今は方法が分かっている。エノトスにも研究者がいてな。そいつの話では、お前の”停止”の力で”石”の力は消すことができるってよ。」
「”停止”で…?」
「”停止”は生物の動きだけでなく、異能の力も停止させる能力だ。”石”は生物ではないが、唯一、無機物で異能の力をもつ物体だ。お前の”停止”で”石”の異能、つまりバリアは取り除くことができる。そうすれば、簡単に破壊できるのさ。
 だから、当初は”石”を奪った後で、お前に協力を、場合によっては無理やりお願いするつもりだった。」
「今、私を無理やり協力させる、ということですか?」
 東條は、戦闘態勢をとる。
「焦るなよ。今日は話し合いだって言っただろ?お前に、俺のビジョン実現を手伝ってほしいってことだよ。
 お前のとこにもいるだろ。異能の力のせいで不遇な思いをしてきた隊員たちが。今だって、異能の力があるから戦ってるんだ。
 そいつらみんな、解放することができるんだぜ?いい話じゃないか。」
 東條は白川や他の隊員の話を思い返す。異能者ゆえの疎外感、迫害。それは、確かに存在している。だが…。
「私のチームにも異能者ゆえに苦しんだ人はいます。ですが、彼らは今、非異能者と共に生きていくために前を向いて進んでいるんです。」
「それは、お前が無理やり植え付けた考えじゃないのか?」
 東條は各隊員に対して、雑談まじりに普段から要望を聞いている。隊員たちには、異能の力をさげすむ考えを持つ者はほとんどいないように思えた。
「異能の力は、人類の進化です。人類を次の次元に進めることができる能力です。非異能者の暮らしにも、大きな良い影響を与えられる。例えば、テレポートをうまく使えば物流は大きく変わる。
 "石"の研究が進めば、誰もが異能の力を利用できるようになるかもしれない。
 この力は、異能者、非異能者関係なく、社会のために使われるべきものです。そのために、私は”異能者と非異能者の共存”を実現したい。
 西陣。あなたには共感できない。」
 東條はあえて西陣の名前を呼び捨てにした。訣別の意味を込めて。
「そうか、東條…。残念だ。話し合いは平行線ってやつだな。ここでお前を始末したほうが今後のためにはいいんだが…」
 東條はその言葉を聞き、覚悟していたとは言え冷や汗が出た。
「俺は約束を守る男だ。今日は戦わないさ。
 あと、お前にはいい情報だ。”石”を奪うのはしばらくやめておいてやる。こっちも戦力が減ってきたからな。
 だが、”石”は必ず破壊する。」
西陣、私の協力なしに、どうやって破壊するつもりだ。」
 東條が言い放つ。
「それは、お前の能力をコピーさせてもらうつもりだ。」
「コピー!?」
「四方(しほう)、頼む。」
 西陣がそう言うと、通路の奥から小柄な女性が現れた。20歳前後だろうか。顔は無表情で、黒いワンピースに身を包んでいる。
 四方と呼ばれた女性は、無言で東條に近づく。
 東條は身構える。
 南部が東條を後ろから掴んで、押さえた。
「東條、危害は加えない。これが終われば、今日は解放する。」
 四方が東條の額に手を当てた。その数秒後、東條の頭に違和感が走る。頭を検索されているような感覚。これまで味わったことがない感覚だ。
 しばらくして、四方は手をどけた。
 東條は全身汗だくになっていた。
「何をしたんだ!」
 東條が叫んだ。
「お前の能力をコピーさせてもらっただけだ。危害は加えていないさ。
 じゃあな、また会おうや。」
 西陣がそう言った後、4人は通路の奥へ去って行く。東條はそれを追おうとした。
 だが、体が動かない。四方が東條に向けて手をかざしている。
 ”停止”の能力だ。東條の能力を、四方が使っている。
 東條の能力が、コピーされたのだ。
 東條が動けない間に、4人は姿を消した。

★つづく★