凡人が成果を出すための習慣

残業ゼロで成果を出すには、どうしましょうか?

小説:ヒーローの管理職 第32話 終章1

マネジメントについての連続小説です。

1話からご覧になりたい方は、下記のカテゴリー別一覧へ移動ください。

 明け方、午前5時。その日、異能犯罪者捕獲部隊は緊張に包まれていた。

 東條は、以前から全ての隊員に、今日の”石”の移送時がエノトスとの決戦となるだろうことを伝えていたためだ。この日に備えて、隊員たちは研鑽を積んできた。

 ”石”の移送方法については上層部で決定された。移送車(装甲がついたトラック)に”石”を積んで移送する。エノトスをかく乱する目的で、3台の移送車を用意し、どれか一つに”石”を積んで、3台同時に別経路で目的地へ向かう。
 どの移送車に”石”があるかは、エノトスに漏らさないため、上層部の一部の者しか知らない。東條も知らされていない。
 上層部からの指示は、「すべての移送車に”石”がある想定で、移送車を護衛せよ」である。
 護衛を3チームに分ける必要があるため、戦力は分散されてしまう。だが、エノトス側も同じだ。移送中、街中での戦闘となることを考えると、互いの戦力が分散されるほうが被害が少なくてすむ、という上層部の考えもあるようだ。
 東條はAチーム、Bチーム、Cチームをそれぞれの移送車の護衛につけた。また、チーム間の連絡やサポートのため、サポートチーム5名をそれぞれ2名、2名、1名に分けて、それぞれのチームに同行させた。移送車には”石”がある区画と護衛する隊員が乗り込む区画が分かれており、隊員たちは移送車に乗り込むが、”石”が本当にその移送車にあるかどうかは、区画が別れていてわからない状況である。
 結果的に、下記のような布陣で護衛することにした。

 ・移送車① 赤崎率いるAチームで護衛 サポートチーム2名
 ・移送車② 白川率いるCチームで護衛 サポートチーム2名
 ・移送車③ 金城率いるBチームで護衛 サポートチーム1名 および東條

 東條も護衛につく。つまり、異能犯罪者捕獲部隊の14名、および司令官である東條、全ての人員を投入して護衛をする。
 なお、現時点はヒーローアソシエーションの通常勤務には、夜部隊が入っている。街中の移送になるため、本来は人が少ない深夜に実施したいのだが、エノトスとの戦闘経験が多い昼部隊−東横率いる異能犯罪者捕獲部隊は夜の戦いに慣れていない。昼部隊による護衛を有効なものにするため、明け方という時間に移送することになった。

 3台の移送車があるヒーローアソシエーションの地下駐車場で、東條は隊員たちに激励を送る。
「みなさん、今日は激しい戦いになるかもしれません。ですが、これまで各サブチーム、そして異能犯罪者捕獲部隊として鍛錬してきた成果が、必ず出ます。
 よろしくお願いします。では、出動です!」
「了解!」
 全てのヒーローから気合のこもった返事が来る。
 そして、各チームに分かれ、移送車へ乗り込んだ。

 ***

 赤崎は移送車の中で、精神を集中していた。
 移送車は市街地を走っている。日中なら人が行き交うオフィス街だ。
 避難勧告を出したいところだが、秘密裏の作戦ではあるため、出すことはできなかった。
 ビルの中には人がいる可能性はあるし、通勤などで人が現れる可能性はある。だが、今のところ、外には人の姿は見えない。
 この移送車に”石”があろうとなかろうと、エノトスは”石”を奪うために攻撃してくるだろう。
 どこに”石”があるかはエノトスも知らないはずだからだ。
 黒峰も、灰乃木も、サポートチームの面々も緊張した面持ちで移送車の座席に座っている。

 その時、突然、前方で爆発音がした。
 移送車が進む道路が爆破された。大破した道路に突っ込まないよう、移送車のドライバーがハンドルを急激に切る。
 移送車は、道に対して横になる形で止まった。
 反対車線は分離されており、強引に反対車線を通って先に行くことはできそうにない。止まるしかないのだ。
 逃げ場の少ない場所での襲撃。これはエノトスが狙ってのことだろう。

「来たな!」
 赤崎は叫んだ。
 赤崎、黒峰、灰乃木はすぐに移送車の外に出る。
 サポートチームは頑丈な移送車の中からサポートする。

 現れたのは、南部だった。フルフェイスマスクをしているが、隻腕なので明らかに南部だ。
 そして、他に3名の襲撃者がいた。南部を合わせて4人。
「ちっ!数が多い!」
 赤崎がぼやく。
「4人…多いですね。とりあえず、私が重力かけて遅くしておきます。その間に戦略考えてください。」
 灰乃木が提案した。
「分かった。助かる。」
 赤崎はすぐに戦略を組み立てる
 チームメンバーの個性を生かしたタスク設定を、この数か月訓練してきた。

 ・ゴール
  ターゲット4名の無力化
 ・タスク
  タスク1:最も強敵と思われる南部に集中的に攻撃するため、他3名のターゲットを黒峰が抑える
  タスク2:赤崎と灰乃木で南部を集中攻撃し、無力化
  タスク3:3名のターゲットを順次無力化
  
 黒峰は”サイコキネシス”で大きな瓦礫を操ることで、多数の敵を寄せ付けないように戦うことはできる。あまり正確な攻撃はできないため、無力化はできないかもしれないが、今は南部を倒すまでの間、3名を引き付けてくれればいい。
 ただ、南部以外の3人の異能が何であるか分からないため、タスク3も今のところは大雑把なものになっている。
「黒峰、3名を瓦礫で移送車に寄せ付けないようにしながら、どんな異能か確認してくれ。お前は観察力が高い。やれるか?」
 赤崎は黒峰に指示した。
「やってみます!」
「灰乃木、相手は強敵だが、お前の重力を使えば、南部の投げる爆弾の軌道をずらすことができる。相手のペースにしないため、俺と一緒に南部と戦ってくれ。」
 赤崎はメンバーの手前、”南部さん”とは言わずに指示をした。
「了解。」
 赤崎は灰乃木と黒峰の特性を、今では熟知している。チームとしてのタスク設定は、上達していた。
 赤崎、灰乃木、黒峰の3人は、移送車の前で陣形を整えた。

 まずは、灰乃木が襲撃者4人に重力をかけた状態で、黒峰が、南部が破壊した道路の瓦礫を飛ばした。
 だが、重力がかかっているとは言え、南部の作る爆弾の威力は衰えない。瓦礫は南部に爆破された。
 爆風に乗じて、赤崎が南部へ飛び掛かる。だが、南部はそれを察知していたのか、赤崎の方向へ爆弾を投げつけていた。
「まずい!」
 赤崎は不意を突かれたが、爆弾をすぐに蹴り飛ばした。これまでトレーニングしてきた連続攻撃で、2撃目の蹴りを南部に向けて放つ。
 だが、少し距離があるため、避けられた。重力がかかった状態でも、南部は赤崎と対等に渡り合う。
 戦闘能力は、はやり歴代最強の世代と呼ばれるだけはある。赤崎はそう思った。
 南部は爆弾を地面に向けて放ち、爆風を利用して灰乃木の重力の及ぶ範囲から抜け出した。
「そろそろ、加重時間の限界です。一旦解除します。」
 灰乃木が赤崎と黒峰に伝える。
「了解。南部だけが後ろに下がったから、俺はそのまま南部と戦う。灰乃木、援護頼む。黒峰は、さっきの指示通り、移送車の前で防衛を頼む。」
 赤崎は2人に指示を出した。

「赤崎。強くなったな。チームの力を使うとは、驚きだ。養成所では一匹狼みたいなやつだったお前が。」
「南部さん、俺はあんたを超える!」
 赤崎は次々に蹴りを繰り出すが、南部は後ろに下がって避け続ける。爆弾の爆風で、さらに赤崎との距離を取った。
 そして、すぐに新たな爆弾を赤崎へ向けて放つ。赤崎は直撃を避けたが、土煙が舞う。
 これは、土煙に紛れて接近して強力な一撃を加える、南部の得意とする戦術だ。
「灰乃木、俺を軽くしてくれ!」
 赤崎はその戦術を南部がとってくることを予想し、不意打ちをされないように土煙から飛んで脱出する。灰乃木に体を軽くしてもらったことで、ワンステップで視界のひらけるエリアまで抜け出せた。
「灰乃木、解除。」
「3秒待ってください。この切り替え速度がぎりぎりですからね。」
 赤崎の注文に、灰乃木が冗談っぽくぼやいた。
「負担かけてすまないな。」
 だが、赤崎に対する重力操作が解除される前に、南部が土煙の中から飛び出してきた。そして、そのまま赤崎に掌底をぶつけ、爆弾を爆発させた。
 体重の軽くなっている赤崎は吹っ飛んだ。そして、ビルの壁にめり込んだ。
 灰乃木の重力操作で軽いまま壁にぶつかれば衝撃は少ないのだが、吹っ飛んでいる最中に重力操作が解除されてしまった。そのため、結構なダメージとなった。
「がはっ!」
 赤崎は思わず声が出る。
(なぜ土煙のなかからあんなに正確に俺のほうに攻撃してきたんだ?声の方向?それとも俺の行動が読まれているのか…?)
 左のほうがスペースが広くあったから、赤崎は土煙の中から左に飛んだ。そんな赤崎の行動を、南部は読んだのかもしれない。
 戦闘の経験値の差。これは歴然だった。

「さぁ、俺を超えるんだろ?やってみろ。」
 南部が冷たく言い放った。

 ***

 その時、白川のチームが護衛する移送車も繁華街を走っている最中に襲撃されていた。赤崎チームの移送車が襲撃された情報を白川がサポートチーム経由でキャッチしたのち、すぐの事だ。
 だが、赤崎チームの襲撃者と異なり、襲撃者は1人だ。
 黒い戦闘スーツに見を包んでいる、小柄な女性だ。マスクはしておらず、インカムのようなものをつけているだけだ。顔は無表情。
 赤崎が護衛する移送車を止めたとき同様、こちらの進路を爆破してきた。
 今は、白川、黄原、紫村の3人とその襲撃者が対峙している。襲撃者は外見から察すると、東横が事前情報として教えてくれた、四方(しほう)と呼ばれる女性かもしれない。東條の"停止"をコピーしているという。
 ”停止”は厄介な能力だが、襲撃者は1人だけだ。1人だけならなんとかなる。白川はそう思った。

 すぐに、紫村が仕掛けるが、”停止”された。だが、それは白川の狙いで、紫村はおとりだ。紫村に意識を向けさせ、ターゲットを後ろから襲う銃撃を白川が撃つ作戦だ。
 すぐに白川は2発の銃撃を打つ。その弾丸は弧を描いて四方を後ろから襲う。
 だが、四方の姿が急に消えた。
「え!?」
 白川は驚き、周囲を見渡した。
 すると、真横に四方の姿がある。”テレポート”したように見える。
 四方は白川の腹を殴りにかかった。
 とっさに白川はガードしたものの、すごい威力だ。
 白川の横にいた黄原が、白川受け止める。
「くらえ!」
 すぐに白川を後ろに隠し、黄原は”鋼鉄化”して四方に殴り掛かった。
 四方は後ろに飛びのく。四方は攻撃力も、俊敏性もあるようだ。
 紫村も"停止"が解けたようで、同時に四方へ突進する。
「うざい。」
 四方がそうつぶやき、拾った道路の破片を紫村へ投げつけた。
「こんなもの!」
 紫村は手で破片を払いのけた。が、その破片が爆発した。
 紫村は至近距離の爆発で横に飛ばされた。
「うわっ!」
 爆破自体はさほど激しいものではなかったため、腕は吹き飛ばずにすんだが、血が出ている。

「ちょっと、こんなの反則でしょ!」
 紫村は嘆いた。
 それもそのはずだ。なにせ、相手は東條、西陣、南部、北折の4人の能力をコピーしているとみられる。
「東條司令官のの”停止”だけではなく、”テレポート”も使い、”爆弾生成”もでき、おまけに”超身体能力”も持っている…。
 こんな能力者がいるなんて…」
 白川はつぶやいた。
 四方が1人で襲撃してきたのは、人数が足りないからじゃあない。1人で戦力として十分だからだ。
「リーダー。冷静に。タスクを考えましょう。」
 黄原のその言葉に、白川は冷静になるよう、自分に言い聞かせた。

★つづく★