凡人が成果を出すための習慣

残業ゼロで成果を出すには、どうしましょうか?

小説:ヒーローの管理職 第21話 メンバーの管理の章8

マネジメントについての連続小説です。

1話からご覧になりたい方は、下記のカテゴリー別一覧へ移動ください。

 襲撃者…南部との戦いを終えた。

 東條は愕然とした。ビジョンの違い?南部が言っていることは理解できなかった。
 だが、今は司令官としてマネジメントを行わなばならない。そうしなければ、異能犯罪者捕獲部隊はエノトスに潰されてしまう。
 狼男も相当な強さだった。他に、南部や狼男のレベルの異能者が複数人で襲ってきたら。
 隊員個々人は頑張っている。だが、個人のがんばりには限界がある。危機を乗り越える方法は、マネジメントしかない。東條はそう考えていた。

 守りを増やして4人体制にする。これは今のところ効果がある。
 だが、隊員の数が増えない限り、永続的にできることではない。そして、ヒーローアソシエーションは人材不足であり、増員は期待できない。
 那須賀に教わった属人化排除の手段のうちの一つ、ティーチングとトレーニングが必要だ。
 ・知識を得られるようにする(ティーチング)
 ・アウトプットできるようにする(トレーニング)

 属人化しているスキルである下記の二つについて、ティーチングとトレーニングを体系化しなければならない。
 ・前衛の攻撃回避
 ・後衛による死角からの攻撃

 実際、すでに東條は検討し始めていた。ただ、4名体制というものに隊員が慣れるまでは、ティーチングとトレーニングは余計な疲弊を招くと考え、実施しなかった。だが、そろそろ導入すべきだと東條は思った。
 東條は、”前衛の攻撃回避”のスキルアップ方法を明文化していく。とは言え、東條は現役を退いているので、赤崎の次に回避に長けている青森にも話を聞きながら、明文化していった。赤崎が復帰したら、赤崎からも方法を聞いて、改訂していくつもりだ。
 明文化したスキルアップ方法を前衛の役割をする隊員に伝える。この時点でティーチングは終わりだ。
 後は、トレーニングルームおよび実践で、実際に回避を経験させ、隊員に攻撃回避できるようになってもらう。ティーチングの次の項目である、トレーニングの実践に他ならない。

 ”前衛の攻撃回避”については対策はとれた。だが、”後衛による死角からの攻撃”は問題だ。
 なにしろ、”サイコキネシス”が能力として必要であるし、銃弾を精密に操るレベルは、白川ぐらいしかいないのだ。努力でどうなるというものではない。まさに属人化である。
 異能犯罪者捕獲部隊には、白川以外にも”サイコキネシス”能力をもつヒーローがいる。黒峰卓(くろみね すぐる)。23歳。黒峰は白川に比べて、より重たいものも手を触れずに動かすことができる。主に瓦礫をどけて救助したり、逆に瓦礫などの重たいもの、鉄くずなどを操って異能犯罪者にぶつけて攻撃するような戦術を得意とする。だが、白川のように小さなものを精密に操れず、死角から銃弾で攻撃することができない。黒峰の個性を生かした攻撃を行うことも大事だが、今のチームにとっては、白川のような攻撃が重宝されている状況だ。
 だが、東條には考えがあった。黒峰の”サイコキネシス”で死角から攻撃をできる方法について。

 スキルアップの属人化対策はすぐには形にならない。しばらくは、南部との戦いのような、厳しい状況が続いた。
 エノトスは出動要請に合わせて襲撃してくる。南部はあれ以来姿を見せなかったが、引き続き強敵が襲撃してきた。厳しい戦いに、隊員たちのダメージは徐々に蓄積していった。
 日が経ち、”後衛による死角からの攻撃”については、黒峰について一定のスキルアップ効果が見えてきた。白川の属人化は緩和され始めた。だが、赤崎の穴は大きく、隊員の疲弊は目に見えて増えてきている。

 そうして、ちょうど14日経った日、異能犯罪者捕獲部隊にピンチが訪れる。

 その日も出動要請に合わせて襲撃してきた。
 南部ではなく、”超身体能力”型の異能者だ。
 同じように、隊員を迎撃に向かわせる。4名は出動要請に対応していたが、この日は他に3名の隊員が待機していた。
 よって、3名での防衛戦となる。
 東條はオフィスから、出動要請と迎撃の両方に対して指示を出すことにした。隊員の疲労が見え、両チームに指示のサポート必要と考えたためだ。
 前回同様、エントランスで迎撃チームは防御主体での戦いを行う。

「防御の武装で固めてるって言っても、ターゲットからの攻撃がきついっすわ~」
 金城がいつもの軽い口調でぼやく。
「確かに、攻撃力が高い異能者だな…。」
 青森が答える。
「でも、俺、がんばります!」
 黒峰が前向きに発言した。

 迎撃チームは守りの戦いとは言え、前衛の青森、守りの金城、後衛の黒峰と、役割としては一通りそろっている。
 そのため、東條は守りだけではなく、従来通りの戦い方も視野に入れて指示をしていた。
 それは、黒峰が白川に近いことができるようになったことにある。
 黒峰は"サイコキネシス"で金属の板を操る。その金属の板は、銃弾を反射する板である。金属板を遠隔でターゲットの斜め後ろに配置し、黒峰はそこに向けて銃弾を撃つのだ。金属板にあたった銃弾は反射し、ターゲットのもとへ向かう。つまりは、ターゲットの斜め後ろの「死角」から攻撃が可能になる。
 この戦い方についてのティーチングとトレーニングを黒峰に行ったのだ。白川の銃弾操作に比べると、反射板を使うため精度は劣る。だが、60点で構わない。"後衛による死角からの攻撃"の属人化を排除するにはこれで十分だ。
 それに、もともと黒峰の持ち味である瓦礫や鉄骨などを操ってぶつける、重量で圧倒する攻撃を組み合わせれば戦略は広がる。
 東條は3名に連携を指示し、攻めに転じさせた。
 襲撃者と互角以上に渡り合っている。
 このままいけば、無力化が可能と思われた。

 だが、その時である。
 オフィスにけたたましいサイレンが鳴り響く。
 侵入者である。
「まさか、テレポートで侵入して来たのか!?」
 東條は思わず叫んだ。同時に、警備部隊から連絡が来る。
「建物内に2名の侵入者です!1階の会議室に突然現れました!侵入者は爆弾のようなもので警備を退けながら、地下へ向かっています!応援願えますか!?」
 状況から考えると、南部とテレポートの異能者が、"石"を狙ってきている。出動要請と襲撃を囮にして、侵入してきたのだ。まずい状況である。
 オフィスで戦えるものは、今は東條のみだ。とても1人では対応できない。誰かを迎撃チームから戻す必要がある。
 東條は即断した。金城に通信を飛ばす。
「金城さん、アソシエーション内に侵入者です!対応するため、地下へ来てください!」
「え?マジっすか。うわぁ。了解っす!」
 金城が戸惑いながら返答した。
 "石"を守るには、それこそ防衛戦が必要だ。他のヒーローたちが戻るまで、耐え忍ばなければならない。金城の防御が必要なのだ。

 "石"への道は異能犯罪者捕獲部隊のオフィスと同じ階で、すぐ近くにある。
 東條は急行した。戦闘スーツを着用する間もない。
 警備部隊の隊員が2名、応戦のために待機していた。
 東條は"石"へ続く通路へ出た。頑丈な扉で"石"へ続く道は閉ざされている。だが、南部がその気になれば爆破して穴を開けることはできるだろう。それに、テレポートで抜けることすらできるかもしれない。実際はこの扉の先には自動反応式のレーザーがあるため、テレポートで不用意に進むことは致命傷になるのだが。エノトスのコミュニティサイトにはヒーローアソシエーション内の図が掲載されていたため、もしかすると侵入者はそのレーザーの存在を知っているかもしれない。そうであれば、これ以上はテレポートでは向かってこないはずだ。
 東條が待ち構えていると、2人の侵入者が通路を進んできた。警備部隊は応戦するが、侵入者に軽くあしらわれてしまった。
 そして、侵入者は東條と向かい合った。
 侵入者のうちの1人がフルフェイスのマスクを外した。やはり、南部である。
「南部…」
 顔を晒した南部が言う。
「お前とこうやって戦うことになるとはな。4年前と同じ、この地下で。」
「ビジョンが違うって、どういう事だ!教えてくれ!」
 東條は声を荒らげた。
「東條、お前は異能者と非異能者の共存なんてこと言ってるようだな。だが、"石"なんて…異能の力なんてなくなったほうが良いと思わないか?」
「異能の力がないほうがいい?どういう意味だ!」
「異能者に非異能者は脅かされる。異能者は異能の力ゆえ非異能者に迫害される。ならば、そんな力はないほうがいい。そういうことだ。
 じゃあ、そろそろ行くぞ。」
 南部はフルフェイスマスクを再びつけると東條へ向かって行く。
 東條はすぐに南部を停止させようとした。だが、すでに南部は爆弾を東條に向けて投げていた。東條はとっさに避ける。
 爆弾が爆発する。ヒーローアソシエーションの地下は、4年前の事件以来、作りを堅牢なものに変えている。そのため、地下が崩壊するようなことはなかった。
 東條は間一髪避けたが、いざ南部に向かおうとすると右足に激痛が走った。右足から血が出ていた。爆破で壊れた、通路と部屋を隔てるガラスの一部が足に刺さっていた。
 だが、それでも東條は懸命に南部に”停止”を仕掛ける。だが、相手は2人だ。南部は止められても、もう1人は止められない。テレポートの異能者と思われる、もう1人の侵入者が東條めがけてナイフを突き立てる。”停止”を発動中は、東條も大きくは動けない。だが、ナイフで刺されるわけにもいかないため、南部の”停止”を解除し、向かってくるナイフを振り払う。テレポートの異能者は、さほど戦闘は強くないらしい。東條はナイフを簡単に振り払うことができた。
 侵入者たちの後方に、金城が到着するのが見えた。
 南部とテレポートの異能者を、金城と東條が通路内で挟む形となった。
「金城さん、マグネットマグナムの用意を!私が今から撃ちます!」
 東條は金城に向けて銃の引き金を引く。実際は、東條と金城の間にいる侵入者2人に対しての攻撃だ。それを金城がマグネットアームで吸い寄せることで、威力の増した銃弾が侵入者を襲う。だが、案の定テレポートで銃弾が消される。
 南部が東條に迫る。金城は果敢に助けに向かう。だが、南部が複数の爆弾を金城側へ投げつける。
 金城は右手のシールドを立てて、爆弾から身を守る。
 だが、狭い通路なので、爆風で吹き飛ばされた。
 東條を"石"が奥にある扉の前に1人、足を引きずりつつ構える。金城は倒れ込んでいる。

 南部は扉の前の東條へ爆弾を向けた。絶体絶命のピンチである。
「東條。お別れだ。」
「南部…!」

 爆弾の音が響いた。

 ★つづく★