凡人が成果を出すための習慣

残業ゼロで成果を出すには、どうしましょうか?

小説:ヒーローの管理職 第33話 終章2

マネジメントについての連続小説です。

1話からご覧になりたい方は、下記のカテゴリー別一覧へ移動ください。

 他の移送車が襲撃された連絡を受け、東條は自分が護衛する移送車も、すぐに襲撃が来るであろうことを予期した。

 案の定、移送車が急ブレーキを踏んだ。
「前に、人が急に現れました!」
 移送車のドライバーが言った。
 移送車から降りてみると、オフィス街を横切る道路の真ん中に、男が倒れている。
 ドライバーが言うには、何もないところから、急に現れたという。
 肩が上下しているので、息はあるようだ。だが、意識がないのか、動かない。
 普通に考えれば、救助すべきだろう。
「こりゃあ…北折ってやつの仕業っすかね。一般人をテレポートで送り込んで、移送車を無理やり止めるっていう魂胆?」
 そう言いながら、金城が倒れている人に近寄る。
 金城の言ったとおりのエノトス側の作戦かもしれない。だが、東條は違和感を感じた。
 西陣が何の罪もない非異能者を、引き殺されてしまうかもしれないような目に合わせるだろうか?
「金城さん、すぐに離れてください!おそらく罠です!」
 同時に、移送車内のサポートチームから連絡が来る。
『異能者の反応を検知!その男は異能者です!』
「え!?」
 金城が反応する。
 だが、すぐに倒れている男が急に動き出し、金城の足首を掴んだ。
 そして、そのまま金城はぶん投げられた。
「うおあ!」
 金城は道路際のガードレールに激突した。
「うわっ、びっくりしたっす。」
「金城さん、大丈夫ですか!?」
「マグネットアームでとっさにガードレールと極性反発を起こして威力を緩和させたっす。ダメージはないっす。」
 東條は安堵した。少なくとも、1人目の襲撃者は怪力が出せるような異能者のようだ。
「勘が当たらくなぁ。」
 前方から西陣の声がした。
 西陣、北折、他に1名が姿を現した。手レポートで現れたと思われる。全員、マスクはしていない。
 倒れていた男と合わせ、4名で襲撃してきていることになる。
「だまし討ちか。卑怯な戦法を使うな。」
 東條が西陣をなじる。
「戦いに卑怯もあるかよ。」
 西陣が返す。
「卑怯ついでに、直接移送車の中にでもテレポートしたらどうだ?」
「どうせ、センサー式のレーザーが設置されてるんだろ?外から移送車をぶっ壊すさ。」
 東條と西陣の会話の後、襲撃者側から、北折と他2名が前に出た。西陣を除く3名だ。
「では、まずは俺たちで攻めますから、西陣さんは準備を。」
 北折がそう言った。

 東條は西陣の能力をフルで使うには、準備がいることを知っている。東條が現役のヒーローだったころ、何度も一緒に出動したことがあるためだ。
 ”超身体能力”は常に使えるが、炎を操る能力は、加熱とも言える西陣の体内での事前準備が必要だ。
 エネルギーをためるようなものである。
 その、加熱をこれから行うのだろう。

 今の西陣の力のほどはわからない。だが、司令官の頃と同じ実力であれば、ヒーロー至上最強の強さである。
 西陣の準備を完了させるわけにはいかない。
「一挙に、カタをつけましょう。」
 東條はそう隊員たちに言い、いつものようにタスクを指示した。

 相手は、北折のほか、金城を投げた怪力の男、そしてもう1人、獣人に変化(へんげ)している男がいる。
 ネコ科の動物。斑点があるので、チーターだろうか。俊敏性に長けていそうな異能者だ。

 対してこちらは青森、金城、そして”風使い”の緑澤だ。東條は移送車の前で守りを固める。
 緑澤美月(みどりさわ みつき)。彼女は局地的に突風や、かまいたち現象を発生させることができる。普通の人ならば、吹き飛んでしまうぐらいの風速が出る。
 風は一定範囲への攻撃になるので、多数のターゲットと戦うときには、彼女の能力は非常に有効だ。複数のターゲットの動きを、同時に抑制できる。

 まずは緑澤の風で先手を取ることにした。
「はぁっ!」
 緑澤がターゲット3人がいるほうへ手をかざす。
 だが、緑澤の動きを察知して、チーター男が風の範囲から抜け出た。
 すぐに、”音速”で青森が応戦する。2人ともとんでもない速さなので、東條は目で追えなかった。

 青森とチーター男が激突する一方で、風に覆われて身動きとれない北折と怪力男に対して、緑澤と金城でマグネットマグナムを打ち込む準備をする。
 風でターゲットの機動力を減らし、青森の攻撃かマグネットマグナムで無力化する。これは、金城率いるCチームの必勝パターンだ。
 だが、緑澤が銃を打とうとしたその時、怪力男が北折のテレポートで緑澤の後ろに現れた。
 緑澤の首を後ろから掴む。へし折るつもりだ。
「いや、離して!」
 緑澤が叫ぶ。
「美月ちゃん、あぶないっす!」
 とっさに金城が右手のシールドで怪力男に体当たりを食らわせるために近づく。すでに怪力男の手に力が入り始めている。
 が、急に怪力男の手が止まった。
「緑澤さん、今のうちに、離脱を!」
 東條が怪力男を”停止”させたのだ。
「はぁはぁ、ありがとうございます、東條司令官。」
「無事なようですね。良かったです。テレポートが相当厄介ですね…」
 東條は、まずはテレポートの阻止に傾注することにした。
 東條の”停止”を使って北折を止めればよいのだが、何度もできることではない。北折をまず無力化しなくては。
「私に案があります。今から北折を無力化するタスクをお伝えします。」

 今の戦況としては、次のような状況だ。
 青森がチーター男と戦い、移送車付近で怪力男と金城・緑澤が戦っており、それを東條がサポートしている。
 北折が少し離れた位置からテレポートで怪力男をサポートしている。

 緑澤は、東條のタスク通りに怪力男に風をお見舞いする。怪力男は再び身動きが取れない。
 そこに、緑澤は銃を放つため銃を構える。怪力男を狙う。
 もちろん北折はそれをテレポートで回避しようとする。怪力男をテレポートさせるため、北折は手をかざす。
 が、緑澤の本当の狙いは怪力男ではない。
「慎吾っち、よろしく!」
 金城が青森慎吾に指示を出した。
 青森がチーター男と距離を取り、金城の元へ近づく。
「了解。ちょっとGがかかるけど、我慢してくれ、リーダー。」
 青森がそう言って、金城を抱きかかえ、”音速”で北折の後ろへ回る。
 一方、フリーになったチーター男は移送車へ特攻してくるが、東條が”停止”で抑える。
 北折は、怪力男をテレポートさせるが、緑澤はそのまま怪力男がいなくなった場所に向けて銃の引き金を引いた。
 音速で北折の後ろに回った金城は、マグネットアームでその銃弾を引き寄せる。
 つまり、フェイントをかけたのだ。
 怪力男を狙うと見せかけ、北折を狙った。テレポートさせるときには手をかざしているところを見て、同時に2つのものはテレポートできないのではないかと、東條は想定した。
 怪力男をテレポートさせる時には、北折自身はテレポートできないだろうと。

 緑澤の銃弾は、北折の腹を抜け、マグネットアームに引き寄せられる。
「なに!?ぐはっ」
 北折の嗚咽がこぼれる。
「狙い通りです!テレポートで逃げられる前に、無力化を!」
 東條が叫ぶ。
「了解!どりゃ!」
 金城が北折を殴打する。
西陣さ…ん…」
 北折は気絶した。
「よし、1人、無力化完了っす!」

 すぐに、青森が続いて東條が止めているチーター男に攻撃し、ダメージを与える。
 無力化とはいかないまでも、足に攻撃したことで機動力を弱めることに成功した。
 北折が最後にテレポートさせた怪力男は、再び緑澤の後ろにテレポートしていた。だが、緑澤自身、2度目の攻撃は受けまいと警戒していたので、北折への銃撃後にすぐに移動し、怪力男から距離を取っていた。
 事実上、怪力男だけが警戒すべき相手となったため、あとの制圧は容易だ。
 緑澤が怪力男を風で動けなくし、青森が仕留めた。

 結果的に、北折と怪力男を無力化、チーター男の戦力を削ぐことに成功した。
 単純に考えれば、勝利は目前だ。
 だが…

「調子に乗るなよ。」

 西陣だ。
 東條は圧倒的な力を感じた。マンガで”気を感じる”というような表現があるが、まさにそれだ。言い表せない圧迫感を西陣がいる方向から感じるのだ。
 西陣は両手に炎をまとわせ、仁王立ちしている。
 準備が完了してしまった。
「ここまでやるとはな…。完璧なチームプレイ、恐れ入ったぜ。
 司令官としては、俺より上かもしれないな。だが、一介の異能者としての俺は強いぞ。
 …全力で行かせてもらう。」

西陣から距離を取ってください!」
 東條が指示を出す。
「僕がヒット&アウェイで攻撃します!攻撃力のある敵には、それが安全かと。」
 青森が提案する。
「では、お願いします!その間に作戦を考えます!」
 早速、青森が西陣に蹴りにかかる。音速の蹴りだ。普通は避けられない。
 だが、西陣は片手で青森の足を掴み、蹴りを防いだ。
「ちょっと熱くするぞ。」
 西陣は、青森の足を持った右腕に力を込める。右腕の炎が青森の足を襲う。
「ぐぁぁ!」
 戦闘スーツを着用しているとはいえ、直接の炎に熱さを感じないわけはない。
 青森からうめき声が漏れた。
「青森さん!」
 緑澤が風を巻き起こし、西陣に放つ。
 西陣は掴んでいる青森を、向かってくる風のほうへほうり投げた。緑澤と西陣の直線上に、青森が投げ入れられた形だ。
 西陣はそのまま、青森、緑澤へ向かって炎を放つ。
 青森と緑澤を炎が襲う。緑澤はとっさに、西陣に風をぶつけることをやめ、炎を遮断するための防御の風を起こす。
 炎に巻き込まれていない金城は、横から西陣に近づき、攻撃を加える。
 だが、炎を出しながらも西陣は攻撃をガードした。びくともしない。西陣はそのまま反撃を加える。
「ちょっ、うわっ!」
 金城は攻撃をシールドでガードしたが、威力が高すぎて後ろに飛ばされる。西陣は緑澤と青森を攻撃している炎を止め、金城を連続で攻撃しだした。
 金城は文字通り、防戦一方だ。
 青森がよろめきながら立ち、金城を助けに向かう。青森、金城の2人と西陣1人。2対1の戦いになっても、肉弾戦で西陣は2人を圧倒していた。
 加えて、緑澤が遠隔で攻撃しようとする絶妙なタイミングで、西陣は炎で緑澤を牽制する。
 3人相手に、西陣は優勢に戦いを運んでいる。
 東條は西陣を数秒でも止めようとするが、距離があるせいで思うように止めることができない。
 金城チームと東條はあらゆる作戦で西陣へ挑むが、西陣はそれを上回る。
 東條は、西陣が今でも最強の異能者であることを実感した。

 圧倒的な力で迫る西陣を相手に、時間が経つにつれて隊員たちに疲弊が現れだした。
「正直、きついっすね…」
 西陣はその様子を察知した。
「そろそろ、”石”をいただこうか。」
 西陣はそう言うと、ヒーローたちの隙をついて移送車を攻撃した。
 移送車の後部に西陣は炎をまとった一撃を加え、大きな穴をあけた。
「しまった!」
 東條は口走る。
 すぐに金城が西陣にシールドで体当たりをし、移送車から離す。
 東條はすぐに、移送車で待機しているサポートチームと移送車のドライバーへ安否を確認した。
『サポートチーム、ドライバー共に無事です!それより、東條司令官!”石”が保管されている区画に穴をあけられました!』
 サポートチームから返答。

 東條は、その区画に”石”があるかを確認するため、移送車へ西陣が明けた穴から入り込んだ。
「運が良いのか悪いのか…」
 東條はつぶやいた。
 そこには、”石”があった。
 東條の護衛する移送車が、当たりの移送車だったのだ。

 ”石”の前で、東條は立ち止った。
 東條の鼓動が早くなる。西陣の圧倒的な力を目の当たりにして、東條に葛藤が生まれる。
 西陣を金城たちが必至で止めている。
 赤崎、白川、他の隊員たちも、苦戦を強いられている。
 今、東條が”石”を停止させ、石を破壊すれば…この戦いは今すぐに終わるのかもしれない。
 そんな思いに駆られた。

「そうだ東條。それを壊せば、全て終わる。」
 西陣が後ろに立っていた。
 東條の心を見透かしたように、語り掛けた。
 東條は金城に問いかける。西陣がここにいるということは、金城たちがやられたことになる。
「金城さん、大丈夫ですか!?」
『…』
「金城さん!」
 金城の戦闘スーツに仕込まれたセンサーは、金城の心拍は止まっていないことを示している。だが、ひどく弱い。
 西陣が口を挟む。
「安心しろ。殺してはない。だが、3人とも重傷だろうな。
 全て、異能の力が引き起こしたことだ。
 そんな”石”、なくしちまおうぜ、な?」
 黙る東條に、西陣がなおも語り掛ける。
「お前の異能をコピーした女、いただろ?」
 東條は黙って西陣の話を聞いている。そんな東條に、西陣は話を続けた。
「あの女…四方も、異能の力に人生を狂わされた1人だ。
 あいつは、元々は普通の女子だった。
 だが、異能の力が発現して変わっちまった。四方の異能の力は、人の特性を真似るという能力だった。
 走りが早い奴の特性を真似れば、同じように走れる。話が上手いやつの特性を真似れば、同じく面白みのある話ができる。脳をスキャンして、その人の脳の状態を真似るというもんだ。」
 東條は自分の異能がコピーされた時のことを思い出した。確かに、脳を探られるような感覚だった。
「両親は喜んで、いろいろな優秀な人の特性を真似させた。だが、周りはどう思う?異質すぎる能力を持つものは、気持ち悪がられるのさ。
 四方は一生懸命、両親の期待に応えたが、結果的には世間から冷たい視線を浴びるようになった。
 彼女は情緒不安定になり、能力の制御が難しくなった。脳を真似る能力なんだ。人の感情も真似てしまう。自分を気持ち悪がる感情すらも、真似てしまうようになった。自分の感情、周りの感情、そんなあまたのネガティブな感情が混ざりある状態に耐えられず、四方は感情を無くした。
 四方の両親は、扱いがわからなくなり、施設に娘を預けたらしい。
 俺はあいつを施設から連れ出し、能力をトレーニングして異能の力だけを真似ることができるようにした。俺のチームの一員としての居場所を与えてやるために。
 今じゃ、完璧じゃあないが、それなりの精度で異能の力をコピーできる。俺の炎はコピーできなかったが、チームの主戦力だ。
 俺のビジョンを実現して、異能の力をこの世から無くすためにあいつは生きている。」
 東條は答える。
「美談を語りたいのか?それとも、不幸な異能者を自分のビジョンのために利用している話がしたいのか?」
「嫌味なやつだな。
 異能の力は存在するだけで悪影響だって言いたいんだよ。
 実際、お前も”石”を目の前に悩んでいるだろ?
 ”石”を壊しさえすれば、これ以上誰も傷つかねーんだ。お前さえその気になれば、戦いは終わる!」

 東條は自分の心が、自分のビジョンが、激しく揺れ動くのを感じた。

 ★つづく★