凡人が成果を出すための習慣

残業ゼロで成果を出すには、どうしましょうか?

小説:ヒーローの管理職 第27話 仕事の管理の章3

マネジメントについての連続小説です。

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 東條は西陣接触してきたことをヒーローアソシエーション上層部に伝えた。

 上層部はことを重く受け止め、対策を行うことを約束してくれた。
 だが、1か月後、その対策は東條の思わぬ方向に動くこととなった。

 ”石”を別の場所に移すという計画が持ち上がった。
 ”石”が狙われている。だから、ヒーローアソシエーション本部ではなく、東京湾にある深海の異能関連の研究施設へ移そうということらしい。
 そして、承認や移設計画、移送先の受け入れ準備に時間がかかるため、移設が行われるのは6か月後ということになった。

 東條は反対した。
 確かに深海の施設のほうが攻め込みにくいだろう。
 だが、”石”を移せば、その移送時に確実に狙われる。今すぐなら、エノトスは準備が間に合わないかもしれない。だが、6ヵ月後となれば、話しは違う。
 エノトスのコミュニティサイトには、内部の者しか知りえない情報が掲載されているのだ。ヒーローアソシエーションに内通者がいる可能性は高い。どれだけ秘密裏に”石”の移設を計画しても、内容は漏れると東條は考えている。
 6ヵ月後に、体制を整えたエノトスが”石”の移送時を狙って”石”の破壊を試みてくることは、明らかだ。

 だが、東條の主張も虚しく、計画は承認、確定した。
 一度決まったことは覆しがたい。

 これは、6ヵ月後の”石”移送時が決戦の時ということを意味していた。
 それまでにエノトスに対抗するチーム力をつけなければならない。

 東條はそろそろ戦闘チームを3つのサブチームに分ける体制を導入する準備に入るべきだと考えた。
 まずは、全隊員にチーム分けのことを伝える前に、サブリーダーたちに是非を確認することにした。

 東條は赤崎、金城、白川を会議室に呼んだ。そして、戦闘チームをA、B、Cの3チームに分けることと、3名をリーダーに据えたいという案を伝えた。
 東條は委譲することを明文化する。

〈委譲すること〉
 サブチームにおける、下記の活動
 ①出動時の指揮
 ②チームのトレーニング立案・確定・指揮

 ①は、メインの委譲内容だ。これまで、出動時の指揮は、普段は東條が行っている。東條がすでに別の案件で指揮をしているときや東條が不在の時は、サポートチームのメンバーが代理指揮を行っている。
 だが、これからはチームリーダーに指揮をしてもらう。
 チーム分けの目的は、リーダーたちに指揮ができるようになってもらいたいがゆえだ。東條に指揮が属人化しているため、委譲して成長を促したい。
 ②は、トレーニング時の指揮とも言える。出動時に指揮をする際は、チームメンバーの力量や癖を把握しておいたほうが良い。少しでもリーダーがメンバーのことを知っておいてもらうため、トレーニング内容を立案、確定してもらう。どのようなトレーニングが必要かを考えることは、メンバーについて考えることにつながるからだ。さらに、トレーニング時に指揮の練習をしてもらう。

 この二つを権限委譲することを、リーダーたちに伝えた。
 加えて、今の犯罪者捕獲部隊の状況を西陣のこと、6ヵ月後の”石”の移送が決戦になることを織り交ぜながら話し、指揮が個別にできるチームを作る必要性を伝えた。

「このようなチーム分けと権限委譲を、来月から行いたいと考えています。何か、ご意見や聞きたいことはあるでしょうか?」
 白川は、困惑した様子だ。赤崎も少し眉をひそめている。だが、金城はいつもの調子で笑顔を浮かべながら口を開いた。
「俺は、いいと思うっす。やってみて、わからなきゃ東條司令官に泣きつくっす。」
「前向きな言葉、ありがとうございます。」
 東條が答えた。
 2人の会話を聞いていた白川が、気まずそうに切り出す。
「すいません…私は、不安です…。状況判断はまだうまくできないですし、指揮なんてできるかどうか…」
 東條は、白川が不安を口にすることはある程度予想できた。
「白川さん、その気持ちは分かります。
 ですが、この一ヵ月、白川さんは状況判断を上達させるために、実践で努力されてきました。一ヵ月前よりも、明らかに自律的に動けるようになっています。
 今よりもさらに状況判断を上達させるには、もっと実践が必要だと思うのです。」
「実践ですか…」
「そうです。状況判断の練習について、トレーニングルームのシミュレータでの練習と、実践を積み重ねてきましたが、もっとパターンを経験したいのではないでしょうか?」
「早く一人前になれるなら、そうしたいです。」
「私も指揮のサポートはしますし、黄原さんもいます。白川さんが状況判断をうまくできるようになるには、様々な状況判断が今以上に必要になる指揮を経験することが近道だと思いました。
 ただ、もし辛そうと感じたら、その時には別の隊員に変わってもらうのはどうでしょうか?」
「状況判断の上達のためなんですか…。分かりました、まずは頑張ってみます。」
「ありがとうございます。困難を感じたら、すぐに相談してください。」
 続いて、東條は赤崎に意見を求めた。
「赤崎さんはどう思いますか?」
 赤崎は、少し間をおいて答える。
「なぜ、俺をリーダーに?」
「適任だと考えたからです。
 赤崎さんは常に、個人のレベルでは最適な行動を自律的に行ってくれています。タスク通りに物事が進まなくても、赤崎さんが打開してくれたことは幾度もありました。
 それを、個人レベルではなく、チームという視野に広げて行ってほしいのです。
 赤崎さんならば務まると考えたのです。」
 東條の言葉を聞いた赤崎は、何か考えている様子だった。
「分かりました。南部さんたち…エノトスと戦うには、確かにリーダーという立場の人間が必要かもしれません。
 不安ですが、やってみます。」

 みな、不安がありながらも承諾してくれた。
 次月から、東條はチーム分けを導入したのだった。

 チーム分けを行ってから、東條は注意深く各チームの状況を観察した。
 金城が率いるチームBは、案外まとまっている。金城は悪く言えば深く考えずに判断する性格だが、よく言えば思い切りが良い。状況に適していない指揮を命じてしまうことも少しはあるが、判断が早い。すべての役割をこなしてきたため、適してない判断と言えども、そこまではずれていない。金城には悪いが、東條としては、ここまでうまくいくとは思っていなかった。
 白川は、黄原のサポート受けながら指揮をしている。黄原が、そして時には東條が適度にタスクを一緒に考えている。今のところ、問題はなさそうだ。

 一方で、赤崎は難しさを感じているようだった。

★つづく★