凡人が成果を出すための習慣

残業ゼロで成果を出すには、どうしましょうか?

小説:ヒーローの管理職 第15話 メンバーの管理の章2

マネジメントについての連続小説です。

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 金城は右半身には大きな盾を装備している。一方、左半身の武装はシンプルだ。左手首から前腕にかけて、分厚い金属の板を装着している。
 これは、マグネットアームと呼ばれる。その武装は、強力な磁力を発生させる装置だ。また、その磁力は指向性、つまり全方位ではなく狙った方向のみに磁力が働くようになっている。普通は、磁力で鉄骨に張り付いて攻撃を避けたり、異能者の武器を引き付けて奪ったりするために利用する。
 だが、金城はこれを攻撃に特化した用途に使うことを必殺技として提案した。例えば、白川の撃った銃弾を磁力でひきつけ、殺傷力を上げる。青森のブーツに鉄を仕込み、マグネットアームでひきつけることで、”音速”での蹴りの威力を上げる。鋼鉄化した黄原を引き付けて、強烈な体当たりにする。などだ。
 ただ、磁力でひきつけることはできても、それを金城が受け止められなければならない。もしターゲットへの攻撃が外れた場合、その攻撃はダイレクトに金城を襲うからだ。
 また、銃弾ならまだしも、青森や黄原は引き付けられた時の体制保持や金城への当たり方について気を付けなければならない。
 さらに、攻撃者とそれを引き付ける金城が、ターゲットを挟むようなポジションでなければ攻撃が成立しない。
 だが、白川の銃弾は別である。白川が銃弾の軌道をコントロールすることで、どこから撃ってもターゲット経由で金城にマグネットアームに銃弾を吸い寄せさせることができる。そのため、プロジェクトとしてはまず、白川の銃弾を金城のマグネットアームで引き寄せる、という技を完成させることをゴールにした。
 なお、すでに実践で一度使ったことがあり、技の名前は”マグネットマグナム”である。
「かっこいいっしょ!」と金城が命名した。

 東條は指示した。
「金城さん、白川さん、初めに説明した通り、マグネットマグナムの準備を。今放っても”テレポート”で防がれてしまう可能性が高いですが、その場合はサポートチームが”テレポート”の異能者を探知しやすくなるので、攻撃を開始しましょう。」
 異能者を探知するときは、異能者が能力を使うときに反応が強くなり、見つけやすくなる。まずは、白川の攻撃をわざと”テレポート”で防がせることで、サポートチームによる探知を早めることが狙いだ。
「では、撃ちます!金城さん、お願いしますね。」
「OK!」
 白川と金城がやり取りし、白川が銃撃を放った。
 白川のコントロールにより、放った銃弾は弧を描いて狼男と金城が一直線になる軌道へ進路を変更する。金城が起動させたマグネットアームで銃弾を吸い寄せる。この一瞬のマグネットアームの繊細な操作を行うには、金城の”武装使い”の異能が必要なのだ。
 狼男のもとに加速した弾丸が届く瞬間、案の定、白川の銃弾は”テレポート”でどこかへ消されてしまった。
「…はやり、厄介ですね。」
 東條がそう言い終わった時、サポートチームから連絡が入った。
「もう1人のターゲットの位置、特定できました!北隣のビルの路地です!詳しい位置情報を送信します!」
 隊員と東條のマスクに位置情報が表示された。
「了解です。その路地に、他に人はいませんか?」
 東條が訪ねた。場所が分かれば、”透視”能力をもつサポートメンバーが周辺状況を把握できる。”透視”で確認したサポートチームの隊員が答える。
「路地には、黒いコートの男が1人いるだけです。つまりは”テレポート”の異能者だけかと。」
 白川が指示を仰ぐ。
「では、路地に銃撃します!OKですか?」
「お願いします!」
 東條が答えた。
 白川の放つ銃弾が2発、路地へ向かって飛んでいく。
 サポートチームから連絡が入る。
「路地のターゲット、消失!”テレポート”で逃げたかと思われます!銃弾が当たったかどうかまでは、分かりませんでした。」
「…!?人体のテレポートをするとは、命知らずですね…。もしくはよっぽど能力に自信があるのか。どちらにせよ、まだ場所を変えてこの近くに潜伏しているかもしれません。引き続き探索をお願いします!金城さん、白川さん、引き続きマグネットマグナムで攻撃を!」
「了解!」
 もう一度白川が銃弾を放つ。
 今度は、狼男の足に見事に命中した。磁力で加速された弾は、狼男を貫通して金城のもとへ飛んできた。金城はそれを右手の盾で防ぐ。
 2発目も3発目も、足と腹に命中する。
 あくまでも異能犯罪者を殺すことが目的ではないので、足や脇腹など、致命傷にならない場所を狙う。
 狼男は驚いたように東條のほうを向いた。血を滴らせながら、全力で向かってきた。赤崎は狼男との激闘で体力がギリギリのようだ。ターゲットの急な方向転換についていけなかった。
 東條は、最後の力を使って狼男を停止させる。とはいえ、そんなには止められない。ほんの数秒だ。
 しかし、それで十分だった。銃弾のダメージ効いたようだ。狼男は力尽きたように膝を落とした。そして、変化が解けて外観が変わる。若い男だった。
 人の姿に戻ったターゲットは、腹を押さえながら言った。
「ヒーローども…エノトスは"石"を狙い続けるぞ…。ネットの烏合の衆だけじゃあなく、俺たちの仲間が!」
 そして、ポケットから何かを取り出した。携帯電話のようだ。
 東條は直感で危険を察知した。
「赤崎さん伏せて!金城さん、盾で防御を!」
 携帯電話が爆発した。ターゲットが自爆したのだ。赤崎も、金城の盾の傘に入った白川、東條も、もちろん金城も無事だった。
 4年前に西陣を葬った南部の能力、"爆弾生成"と同じ力か。そもそも携帯電話型の爆弾か。どちらかは分からないが、自分を"テレポート"させることや自爆することから考えると、エノトスは命を投げ出す覚悟で"石"を狙う異能者の集まりということだ。
 ただのコミュニティサイトの名前だと思われたエノトスだったが、一つの組織なのかもしれない。
 なお、同時に出動要請が出ていた異能犯罪者が街で暴れている件も、ほぼ同時刻に鎮圧された。

 赤崎は爆発の被害からは逃れたものの、戦いで大きなダメージを負った。救護部隊の異能者の力を借りても、2週間は戦える状態にはならないと医者から告げられた。

 今まで、赤崎に頼りすぎていた。そして、プロジェクトで技が完成してからは、白川の負担も増えつつある。白川に負担をかけ続けると、赤崎の二の舞である。一部のヒーローに負荷が偏ってしまっている。
 このままではジリ貧だ。エノトスという犯罪組織に消耗戦を強いられている。一刻も早く、一部のエースに頼らない戦い方を考える必要がある。
 出動から戻った東條は、ノートを開いた。

 2.メンバーの管理
  2-1.メンバーの要望/疲労状態の把握
  2-2.属人化の排除
  2-3.継続的な育成

 皆の力の底上げが必要だ。一部の隊員に戦闘能力が属人化している。
 "2-2.属人化の排除"を実践する必要を、東條は強く感じたのだった。

★つづく★