凡人が成果を出すための習慣

残業ゼロで成果を出すには、どうしましょうか?

小説:ヒーローの管理職 第13話 自分の管理の章9

マネジメントについての連続小説です。

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 東條は那須賀と飲んでいた。前回マネジメントについて教わったのは3ヶ月以上前だ。那須賀と会うのはそれ以来である。
 東條は忙しくなってきたことや、隊員を過労に追い込んでしまったことを那須賀に話した。どうしても愚痴っぽくなってしまった。
那須賀さん、私はヒーローたちのことを思っていろいろやってるつもりです。でも、一生懸命やってるのにこんな事になるなんて。」
 東條は白川に指摘されてはっとした。隊員の東條に対する信頼関係を損なっていたことに、気が付かされた。
 だが、東條は今の状況がダメだと理解しているものの、どうすれば良いか分からなかった。
 東條は那須賀に相談したくて、那須賀を食事に誘ったのだ。
「あちゃー、そりゃあ、やっちまったな。病院送りはマネジメントとしては重い罪だな。」
那須賀さん、追い打ちかけないでください。反省してるんです。」
「まぁ、やっちまった時間は戻らない。2度と起こさないようにしないとな。」
「そう思います。そう思うんですが、どうしたら良いか分からなくて…」
「じゃあ、今の東條のマネジメントで、何が悪いのか、考えてみるとしよう。前に俺が言ってた3つの管理について、熱心にノートをとってくれてたよな?今、それあるか?」
「もちろんです。」
 東條はノートを取り出した。
 下記の要約部分を開いた。

 1.自分の管理
  1-1.信頼関係を築く行動をとる
  1-2.ビジョンを共有し続ける
  1-3.マネジメントの時間確保

 2.メンバーの管理
  2-1.メンバーの要望/疲労状態の把握
  2-2.属人化の排除
  2-3.継続的な育成

 3.仕事の管理
  3-1.適切な業務指示
  3-2.適切な権限委譲
  3-3.ゴール達成のためのコントロール

「まず、過労で倒れてしまったメンバーがでたり、メンバーからの相談を聞けていなかった、という状況は、"メンバーの管理"の"2-1.メンバーの要望/疲労状態の把握"ができてなかったということだな。」
「はい。でも、話しかけられたら聞くようにしてたつもりなんですが…」
「東條。忙しさで視野が狭くなってるみたいだな。メンバーは、基本的には自分から意見をどんどんマネージャーに話してくれるわけじゃない。みんな、評価が気になったり、そもそも言う必要がないと思ったりして、自分からは言ってこないもんだ。深刻な問題であればなおさら、隠したいという思いが強いため、メンバーはマネージャーに言いにくい。だから、マネージャーが意識的に状況を把握しようとしないといけない。」
「ですが、ビジョンを決めた後、いろいろ隊員が提案してくれたんです。だから、てっきりみんな何でも言ってくれる環境だと思ってました。」
「隊員たちが提案した時は、信頼関係は強く構築されていたんだろう。その環境を作り上げた東條は胸を張って良いと思うぞ。だが、信頼関係は維持し続けようとしないと、すぐになくなってしまう。今、お前と隊員の間の信頼度は下がっているのかもしれない。『どうせ忙しいし、真剣に聞いてくれないかも…』なんて具合にメンバーが思ってるんじゃないかな。」
 東條は、白川の"そんなにも忙しいと気を使ってしまいます。"という言葉を思い出した。
「そうなんですね…。忙しくて、自分を客観視できてなかったかもしれません。」
「人は忙殺されると、適切な判断ができなくなる。どうしても思考力が鈍るんだ。良いマネジメントを行うには、自分が忙殺されないようにしないといけない。それが"自分の管理"の"1-3.マネジメントの時間確保"だ。前にも言っただろ?自分の管理ができてない奴にメンバーの管理なんてできないって。」
「耳が痛いです…。」
「説教してるわけじゃないから、そんなに落ち込むなって。」
 那須賀は笑いながら続ける。
「3つの管理の優先順位は、
 1 自分の管理
 2 メンバーの管理
 3 仕事の管理
 だと前に言ったの、覚えてるか?」
「はい。だから、"自分の管理"のビジョン共有や信頼関係を築くことを優先したつもりでした。」
「それは良いことだ。だが、話を聞く限りは、今の東條は"仕事の管理"を優先しすぎているんじゃないか?それで忙殺されて、他の2つの管理が疎かになってしまってるように思う。」
「ヒーローたちが提案してくれたプロジェクトが増えましたから…。確かに仕事は増えましたね。」
「じゃあ、仕事を減らせばいい。しなくて良い仕事を、東條がしなくて良いようにしたらいい。」
「しなくて良い仕事なんてないですよ!必要な仕事しかありません!」
「確かに、厳密にいえばしなくて良い仕事はないかもしれない。だが、仕事の優先度は決められる。仕事の優先度を、緊急度と重要度で分けて考えるんだ。」
「緊急度と重要度ですか…?」
「そうだ。緊急度と重要度の4象限で考えるといい。」
 そう言って那須賀は東條のノートに図を描いた。同時に、那須賀は東條が今こなしている業務を聞き、それぞれの領域に書き入れた。

 

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「これが、4象限で見た時の今の東條の仕事だな。」
那須賀さん、各業務の緊急度は分かるんですが、重要度はどうやって分けたんですが?どの業務も基本的には重要ですが…。」
「ここでいう重要度は、マネジメントにおける重要度だ。すなわち、組織としてどこに向かうかという、ビジョンに直結した業務ほど重要なものと考えたらいい。相対的に、ビジョンから遠いものは重要ではないものになる。」
「ビジョンに直結する業務が、重要な業務…。」
「じゃあ、どれが優先すべき業務かをこれから説明しよう。
 このそれぞれの業務が、3つの管理で言うと何に当たるか、分類してみるとこうなる。」
 那須賀は図に文字を書き足した。

 

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 那須賀が続けて話す。
「トラブル対応は、業務を指揮するという観点で仕事の管理だ。
 問題対応はいろいろな大きさがあるとは思うが、基本的には解決というゴールがあって、スケジュールを引いて対応するものが多いと思う。そう考えると、プロジェクトの一つだ。だから仕事の管理と言える。
 報告業務はそれらプロジェクトの報告なわけだから、これまた仕事の管理だ。
 問い合わせ対応とか依頼とか事務処理とかは、管理というよりプレーヤーの業務だな。」
「緊急ではない、重要な業務の部分だけが、雰囲気が異なりますね…。」
「気が付いたようだな。緊急でなく重要な業務に、”メンバーの管理”と”自分の管理”が入っているんだ。それ以外の領域には、”仕事の管理”やそもそもマネジメントではない業務が入っている。前にも言ったが、マネージャーの多くはプレーヤーを経てマネージャーになっている。だから、ついつい自分が得意な”仕事の管理”やそもそもマネジメントではないプレーヤー業務ばかりしてしまいがちだ。だが、本当に優先すべきは、緊急でなく重要な業務なんだ。
 他の3象限の業務を減らす、もしくは自分ではしなくて良い状態にして、緊急でなく重要な業務の時間を確保すること。これが”自分の管理”の”マネジメント時間の確保”だ。」
「優先すべきは”自分の管理”と”メンバーの管理”なのに、”仕事の管理”を優先してしまっていたんですね…。でも、どうやって他の3象限の業務を減らせばいいんでしょうか?」
「業務によってベストな解決方法は違ってくるから、これだ!というものはないな。でも、一般論でのアドバイスならできるぞ。
 まずは、緊急でなく重要でない業務。これは、単純にエネルギーをかけないようにする。まぁ、優先度を下げるってことだ。誰かからの依頼や事務作業は、すぐに対応するのではなくて、どこかでまとめて時間をとって実施すればいい。こういう業務は、飛び込みで入ってくることが多い。だが、そのせいで優先度の高い業務を中断してしまうと、重要な業務の集中が途切れて効率が悪くなる。
 さらに、自分でしなくてよいなら、誰かに任せたほうがいい。
 次に、緊急で重要な業務と、緊急で重要でない業務。要するに緊急なものだな。それは、チームで対応できるようにすることだ。決してマネージャーが一人で抱え込んでする仕事じゃない。メンバーに指示してこなさせるべきだ。
 会議についても、重要度を考えて、自分が出なくて良い会議を減らしていくんだ。メンバーに任せるとか、時間自体を短くするとかな。
 そうやって、自分が緊急でなく重要な業務に集中できる時間を作るんだ。」

 

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 ***

 那須賀から話を聞き、東條は改めて”自分の管理”の重要性を思い知った。
 翌日、東條は白川のもとへ向かい、気持ちを伝えた。
「白川さん。申し訳ありませんでした。私がマネジメントの仕方を間違っていたようです。指摘いただいてありがとうございます。」
「あ、いえ…。こちらも感情的になってしまい、すいませんでした。」
 白川は戸惑っていた様子で、それ以上の言葉はなかった。まだ全面的に許せる気持ちではないのだろう。
 東條は、言葉よりも行動で決意を示すことにした。

 彼は緊急でなく重要な業務の時間を増やすため、他の領域の仕事を減らすと決めた。
 とはいえ、出動要請の対応は減らせない。よって、他の業務を減らすことを考えた。
 まずは、他の部隊からの問い合わせや相談である。これは、トレーニングが非番の隊員たちで、チームとして受けるようにした。実際、問い合わせには調べればわかるという類のものがあり、司令官でなくても対応できることは多い。隊員たちでは対応できない問い合わせや相談の場合のみ、東條へエスカレーションしてもらうようにした。また、回答までの時間も、東條はなるべく早く回答するように努めていたが、リードタイムを伸ばした。優先度の低い業務であるため、あえて少し品質を下げたとも言える。予算が確保できれば、非異能者の事務職を雇って、将来的には問い合わせや事務作業をしてもらう予定だ。
 次に、6つあるプロジェクトを減らすことにした。2つ減らし、4つに絞った。実現性や今のヒーローたちの状態から考えた必要性から、優先すべきものを決めたのだ。残りの2つは、来期で実施すると隊員に約束し、納得してもらった。
 上層部にはプロジェクトをすでに説明していた手前、いきなり半分にすることはそれなりの反感を受けた。東條に対する上層部の評価は、多少悪くなるかもしれない、そう東條は思った。だが、長い目で見るとこのまま忙殺されるほうが、継続的な成果がチームで出せないと思い、割り切った。短絡的な評価よりも、ビジョンへ継続的に近づいていけることを優先する方が、結果的には大きな成果になる。
 そうして、東條は緊急でなく重要な業務の領域、つまりはマネジメントをするための時間を次第に確保できるようになってきた。
 マネージャーはチームのマネジメントをするからマネージャーなのだ。東條は、仕事のマネジメントばかりに気をとられ、チームをマネジメントする時間を確保できていなかった自分を恥じた。”自分を管理”できていなかった、ということを痛感した。

 1週間経って業務に戻った桃地に、東條は謝罪した。自分が疲労に気が付いていればこんなことにはならなかった、もう同じことは起こさない、と伝えた。
「いえ、私が無理しただけです。”銃弾テレポート”を完成させたくて、楽しくてつい無理をしちゃいました。」
 桃地はそう言って怒ることすらしなかったが、東條は改めて自分を戒めた。

 赤崎はチームプレイが様になり、目覚ましい成果を挙げている。東條にはまだ素直にはなれないが、これまでよりも生き生きとしているように見える。
 白川もしばらくは気まずそうにしていたものの、東條に以前と同じように気軽に意見をしてくれるようになった。
 他のヒーローたちも、ビジョンを意識した行動が少しずつ表れてきている。
 組織は良いほうに向かっている。東條はそう確信した。

 だがこの時、東條を含めヒーローたちは気が付いていなかった。
 異能犯罪者たちが組織的に、ヒーローアソシエーションに対して戦いを挑もうとしていることを。
 これから、戦いが激しさを増すことを。

★つづく★