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小説:ヒーローの管理職 第19話 メンバーの管理の章6

マネジメントについての連続小説です。

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 今、東條が解決せねばならない課題は2つだ。
 一つ、赤崎がいない2週間を乗り切ること。
 一つ、赤崎が戻った後も同じように特定のヒーローに頼らないように、属人化を排除すること。
 まずは、チームとして頼ってしまっており、負担が多い赤崎と白川。その2人に属人化しているものは何か。それを考えることにした。
 属人化排除のステップ”①業務の見える化”の実践だ。

 赤崎や白川に頼っているのは主に出動要請の戦闘チームとしての対応である。そのため、出動要請時における戦闘チームの活動を見える化することにした。
 ヒーローを出動させる時、東條は原則として下記の役割を想定して3名を選出している。

 ・前衛
 ・守り
 ・後衛

 前衛は接近戦でターゲットを攻撃する役割だ。攻撃力の高い赤崎や、青森、攻撃特化武装の金城がよく選出される。
 守りは前衛、時には後衛を守り、他の2人が攻撃に専念できるようにする役割だ。防御が優秀な黄原や防御特化武装の金城がよく選出される。
 後衛は銃撃などでの遠隔攻撃で、妨害や援護、場合によってはとどめを刺すことが役割だ。銃撃が得意な白川や、遠隔から一挙に距離を詰めてヒット&アウェイができる青森がよく選出される。
 ”①業務の見える化”はこれでよいだろう。

 次は”②属人化している業務の特定”である。
 出動要請時には、前衛が赤崎、後衛が白川となることが多い。
 前衛は最も危険なポジションで、ダメージを負うことが多い。若く経験の少ないヒーローたちは負傷することが多々あるが、赤崎はその圧倒的な戦闘力ゆえ、負傷が少ない。そのため、東條は赤崎を使いがちになっていた。他のメンバーは守りや後衛で経験を積ませるという手法をとっていた。
 また、後衛は、赤崎ほどではないが白川への依存がある。なにせ白川の銃撃精度が高いのだ。どんな場面でも役立つ。
 結果として、前衛が赤崎に、後衛が白川に属人化していることが明確になった。

 そのまま、東條は”③属人化している原因の特定”に入る。
 属人化の原因を考える。

(1)やり方が共有されていない
(2)スキルが足りない

 とは言え、考えるまでもなく(2)だ。赤崎の戦闘も白川の銃撃も、到底手順書に落とせるものではない。
 そもそもヒーローの異能の力なんて、属人化していてあたりまえなのだ。個人個人に別の能力が発現するのだから。
 だが、そう言っていては何も解決しない。

 東條は次に、”(2)スキルが足りない”が属人化の原因である際の対策を検討する。
 ”コアメンバーの行動を分析し、必要なスキルを明確化する”
 東條は赤崎と白川のどのようなスキルが属人化しているのか、分析した。
 赤崎が出動時の行動を思い出す。彼がなぜ負傷が少ないのか。彼が出るとなぜ迅速にターゲットが無力化できるのか。前衛の行動プロセスを細分化して考える。
 ・ターゲットを観察する
 ・ターゲットと距離を詰める
 ・ターゲットの攻撃を避ける
 ・ターゲットを攻撃する
 東條は気が付いた。赤崎は避ける能力が高いのだ。攻撃力もさることながら、回避する能力が高い。ターゲットの攻撃を避けることが、他のメンバーに比べて秀でている。そのため、負傷が少ない。その次に、的確で強力な攻撃が抜きんでている。とは言え、まず優先度を決めて一つのことに対応すべきだ。的確で強力な攻撃は後回しにすることにした。
 前衛の攻撃回避。これが属人化排除の重点項目である。
 次に、後衛の分析である。
 ・安全な場所を確保する
 ・ターゲットの行動パターンを確認する
 ・ターゲットへ攻撃する
 プロセス化して分かった。白川はターゲットが気がつきにくい位置からの銃撃が可能だ。そのため、他の隊員ではできない、不意打ち的な攻撃ができる。ターゲットへ攻撃する、のプロセスにおける、死角からの攻撃。それが主に属人化しているスキルであると気がついた。
 後衛によるターゲットへの死角からの攻撃。これが属人化排除すべき項目だ。

 ・前衛の攻撃回避
 ・後衛の死角からの攻撃

 この二つのスキルが、他のメンバーに足りないということだ。これらのスキルの属人化を排除する方法を考えねばならない。
 那須賀から教わった方法は二つ。

 方法①
 明確化したスキルを下記の方法で身に付けられるようにする
 ・知識を得られるようにする(ティーチング)
 ・アウトプットできるようにする(トレーニング)

 方法②
 ・コアメンバーのパフォーマンスに近づける仕組みを入れる

 前衛の攻撃回避については、方法①がもちろん正攻法だ。だが、赤崎はすでに療養中。今から他の隊員にティーチングとトレーニングをしていては、この2週間は乗り切ることができない。まずは方法②を検討すべきだ。赤崎が戻ってから、方法①を取り入れるほうが良い。
 そこで、東條は戦闘チームの人数を増やすことを考えた。具体的には、守りの役割をもう一名増やすのだ。前衛が回避できるようになるよりも、守りのメンバーを増やすことで、攻撃を届かなくする、または回避しやすい状況を作るほうが簡単だと思えたからだ。
 だが、出動メンバーを増やすことには問題がある。戦闘チームのメンバーは常時6名~7名オフィスにいる。4名を出動させると、場合によっては待機メンバーは2名。先ほどのように同時に襲撃者が現れたり、もう一つ出動要請が来た場合、2名で対応する必要がある。
 これまではあまり二つの出動が重なることはなかった。だが、エノトスが襲撃と異能犯罪を同時に行う戦略をとってくる可能性は、十分にある。今回の狼男による襲撃も、エノトスが意図的に街への出動要請時に合わせて襲撃してきたのかもしれない。
 東條は、もし出動が重なった場合、2名で60点の戦いをすることに決めた。具体的には、2名体制の出動時は、防御に徹するという戦い方にする。ターゲットの無力化を狙うのではなく、防衛する。耐え忍ぶ。そうして、4名で出動しているチームが任務を達成し、2名のチームに加勢するのを待つ。戦闘チームの役割である、守りの役割は属人化していない。守りは武装で高めやすいので、良質な武装があればある程度務まるためだ。
 この属人化排除で、赤崎のいない2週間を耐え抜くと決めた。

 そして、今後のために前衛についても後衛についても、正攻法である方法①での属人化排除が必要だ。つまりは、前衛の攻撃回避、後衛の死角からの攻撃、この二つのスキルについて、他のメンバーが身に付ける方法を並行して東條は検討し始めた。

 予想通り、エノトスからの熾烈な攻撃が始まる。
 ヒーロー達の、2週間の耐え忍ぶ戦いが始まる。

★つづく★