ある企業の、ある部門においての話である。
そこには、門馬(かどま)という係長がいた。
彼はチームメンバーを動かすのがうまい男、として知られていた。
自分で作業はほとんどせず、メンバーに仕事を振る。
メンバーが動きやすいように仕事の優先度を決める。
緊急の仕事が増えれば、メンバーを一時的に増やす。
チームでの成果が出るように、仕事をする、生粋のマネジメントを行う人間であった。
そんな彼は、ちょいちょい休む。
計画的に休むこともあったが、彼自身の体が弱く、急に仕事を休むことも月に数度あった。
そんな体の弱さを門馬自身も理解し、自分ではむちゃをしない働き方を考え、実践していた。
そんな門馬を見下している男がいた。
同じ部門の係長である、根室(ねむろ)だ。
二人とも1年前に同時に係長となったということもあり、根室は門馬をライバル視していた。
彼のチームも門馬のチームも同じぐらい忙しく、同じぐらいの成果をあげていた。
根室と門馬で異なることは、働き方だ。
門馬がプレイングをほとんどしないマネージャーであるのに対し、根室はプレイング多めのプレイングマネージャーだ。
根室には体力もあり、精力的に自分で手を動かして働く。
根室は一日も休めないほど、忙しかった。
実際、休んだ日も根室には電話がかかってきたり、緊急対応があったりと、結局働くという日は多々あった。
「俺がいないと、やっぱりダメだな。一日でも休んだら、仕事がとまっちまうぜ!」
これは根室が普段思っていることであった。
根室自身、そこに充実感はあった。
自分が会社に貢献しているということを感じられた。
そんな根室はちょくちょく休む門馬をさげすんだ。
「門馬はあんなに休んでも仕事が回るんだから、あいつはいなくてもいいんじゃないか?」
そんな気持ちだった。
俺はいないと仕事が回らない。だが、門馬はいなくても仕事は回る。
彼にはそう見えたのだ。
***
そうして、根室は課長の竜崎と評価面談をする時期が来た。
ただ、評価は根室が思っているよりも良くなかった。
何より彼が不服に思ったのは、門馬の評価よりも根室の評価が低かったことだ。
事前に面談があった門馬に対して、根室が評価を無理やり聞いたことで知ったのだ。
根室は、不服さを前面に出して、評価面談で課長に対して異議を唱えた。
「竜崎課長。この評価には納得できません。」
「どうしてそう思うのか、教えてもらえるか?」
「私はほとんど休みもとらずに頑張ってきました。業績だって良かったはず。なのに、なぜ門馬よりも低いんですか!?」
「門馬の評価を聞いたのか…。確かに、俺は門馬のほうが根室よりも高い評価をつけた。」
「なぜですか!?あんなに休んでるやつが俺より評価が高いなんて…」
「さっき根室は『私はほとんど休みもとらずに頑張ってきました』と言ったな。
まず、勘違いしてはいけないのは、企業は頑張りを過剰に評価できないってことだ。
ある程度プロセスは評価するが、あくまでもメインは成果で見る。」
「なら、なおさら納得できません。だって、私と門馬のチームの成果は、ほぼ同じなのですから!」
「そうだよね。その通りだ。だが、ここからが重要な点だ。
それは、根室と門馬は係長であるということだ。」
「…どういうことでしょうか。」
「うちの会社の評価は、主に2軸あることを知っているな?
業績に対する評価と、これからの働きに期待しての評価と。」
「ええ。
業績に対する評価は、私と門馬は同じはず。そして、これからの働きに期待するなら、休まずに働ける体力を持った私のほうが上なのでは…」
「そこの視点が違うんだ。
門馬は確かに休みが多い。
だが、休めるっていうのはむしろマネジメントにおいては評価できるポイントだとも思う。」
「言っていることが良く分かりません。」
「門馬は、いつでも休めるとなると、緊急の仕事をほとんどしていないことになる。
かつ、彼のチームの成果は出ているので、緊急の仕事はチームメンバーに振っているんだ。
基本的に、仕事は緊急度を重要度で分けられる。」
竜崎は図を描いた。
竜崎は続けて話した。
「これは7つの習慣という本で有名な図だ。
門馬は、この緊急ではなく重要な領域の仕事に徹しているんだ。
緊急な仕事はチームで賄っている。
一方、根室は緊急な仕事を自分でやってることが多いよな。
だから、休めない。緊急な仕事なんだから、休むと仕事が止まってしまう。」
「仕事で重要じゃないものなんでないですよ。全て重要な業務です。
こんなのどうやって分けるんですか。」
「そうだな。例えば、課の方針、覚えているか?」
「長期的で健全な成長、でしたね。」
「そうだ。
長期的で健全な成長、というか方針に基づいた活動が、いわゆる緊急でなく重要な活動だ。
根室は、自分でしかできない仕事の領域が多すぎる。
それは、根室に業務が属人化してしまっているということだ。
根室がなんらかの理由で出社できなくなったら…根室のチームはどうなるんだ?」
「それは…。」
「きっと、根室のチームは長期的で健全な成長ができない。
ずっと根室がいないと何もできないチームだからだ。
自分がいなくても業務が回る組織にすることが、健全な成長につながるんだ。
門馬は、ずっとそれをやっている。
先を見て、緊急でない段階で業務のスケジュールを立て、人をアサインし、健全に業務が回るようにしている。
門馬は自分しかできないことを減らしている。
だが、根室は日々の緊急な課題対応に追われている。
どちらが先に期待を持てるチームを作っていけるだろう?」
「私が、自分で動き過ぎていたということですか…」
「まずは、根室自身がもっと休めるようになって欲しい。そこから始めて欲しいと俺は思っている。」
***
あの人がいなくなったら業務回らないかも、という人は価値がありそうだ。
だが、実際はそういう人よりも、ただただサボっている人でない限りは、いなくても業務回るんじゃね?という人のほうが重要だったりする。
短期的に見ればその人がいなくなっても業務は回るだろう。
なにせ緊急の業務は行っていないのだから。
だが、長期的に見た組織の成長は鈍化する。
そんな人をどれだけ組織に抱えられるかが、長期的で健全な成長には、重要なのだ。
※フィクションです。
仕事の優先度について、もっと詳しい内容は下記の小説にて記載しております。
ぜひ、ご覧ください。
ヒーローの管理職 カテゴリーの記事一覧 - 凡人が成果を出すための習慣
★終わり★