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小説:ヒーローの管理職 第31話 仕事の管理の章7

マネジメントについての連続小説です。

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 那須賀が東條に言う。

「"3-1.適切な業務指示"ではゴールとタスクの明確化を説明したよな。」
「はい。ゴールとそれに至るタスクを設定して、指示内容を明確にする、ですよね。」
「そうだ。
 お前のやってる出動なんかは、短い時間でタスクをこなしてゴールを達成するわけだが、長期的にタスクをこなしていって、ゴールを達成するときもある。ゴール達成にたくさんのタスクが必要な場合なんかがそうだ。
 それはプロジェクトと呼ばれたりする。」
「なるほど。プロジェクトのスケジュール管理には、たくさんのタスクが並んでますもんね。」
「その時に必要なのは、タスクが進捗通りに進んでいるかを確認して、思わしくない場合には是正することだ。
 これが、"3.仕事の管理"の"3-3.ゴール達成のためのコントロール"だ。」
「プロジェクトの管理、ということでしょうか?」
「まぁ、プロジェクトマネジメントの一部だな。実際、プロジェクトマネジメントには"3.仕事の管理"の内容が全て必要だ。
 "3-1.適切な業務指示"を意識して、プロジェクトのゴールとタスクを作る必要がある。
 "3-2.適切な権限委譲"を意識して、プロジェクトを進める体制を決める必要がある。
 "3-3.ゴール達成のためのコントロール"を意識して、プロジェクトの進捗を管理する必要がある。
 その、3-3におけるものが、スケジュール管理と課題管理だ。
 スケジュール管理は、設定したタスクが、予定の日程通りに進んでいるかを管理することだ。
 課題管理は、タスクの実施を阻害する要因をなくすために必要なこと、を管理することだ。
 東條は、うちの会社にいる時に、既にプロジェクトはいろいろやってもらってたから、スケジュール管理や課題管理はやってたよな。」
「はい。ヒーローアソシエーションに来てからも、プロジェクトはいくつかやりました。スケジュール管理も課題管理も、実施しましたね。」
「だな。プレーヤースキルに近いから、既に東條は持ってるってことだ。だから、今から話すことは復習になるかもしれない。」
「知らないこともあるはずなので、教えてください。」
「その意気やよし、だな。」
 那須賀が笑いながら続ける。
「スケジュール管理は、さっき言ったようにゴールと、それに至るためのタスクの設定だ。それができないと、何をどういう順番で実施すべきなのかわからない。そして、管理もできない。
 まぁ、何事もスケジュールが必要なことぐらい、当然みんな知っていることだろう。
 そして、そのスケジュール内の各タスクについて、タスクがうまく進められない要素を管理するのが、課題管理だ。
 例を出そう。
 東條、お前が作った”マグネットアーム”を覚えているか?」
「もちろんです。」
 マグネットアームは、マグネットマグナムを使う際に金城の武装として必須となっている戦闘アイテムだ。
 東條が設計から携わった。
「マグネットアームの試作品を作った時のタスク、たしかこんな感じだったな。」
 そう言って、那須賀はタスクを書き出した。

 <マグネットアームの試作作成のタスク>
 ・設計書の作成
 ・材料の調達
 ・設計書をもとに試作品を作る
 ・動作テストの項目を作る
 ・動作テストの実施
 ・テスト結果の振り返り
 ・振り返り結果を試作品に反映
 ・再テスト

「実際はレビューとか、もっとタスクが分かれていたと思うが、ちょっと簡略化しておこう。
 この時、全ての工程で課題はいろいろ出てきたよな。その内の、”材料の調達”での課題を覚えているか?」
「ええ。材料となる超小型電磁石の価格が高騰し、予算内で購入できなくなりましたね。」
「つまりは、”材料の調達”というタスクとそれに準じる後続タスクができない状態になっていた、ということだ。その状態を解決までもっていくために課題管理は必要だ。
 そして、課題管理をする際には、ロジカルシンキングが重要になる。」
ロジカルシンキングですか。聞いたことはありますが。」
ロジカルシンキング、日本語で論理的思考と言われるやつだ。問題解決の思考法だな。課題管理にはうってつけの思考法だ。
 東條、ちなみに問題と課題の違いは分かるか?」
「あまりよくわかりません…」
「問題と課題の違い含めて、ロジカルシンキングについて説明しよう。」
 那須賀は東條のノートにペンを走らせた。

 ・あるべき姿:目指すゴール
 ・現状:あるべき姿とのギャップ(問題)
 ・原因:問題を引き起こしている原因
 ・課題:その原因を解消するためにすべきこと
 ・対策:課題を具体化したもの

ロジカルシンキングでは、あるべき姿を定義し、それと現状とのギャップを、”問題”と呼ぶ。
 そして、その問題の原因を考え、原因を取り除くために必要なアクションを”課題”と呼ぶ。
 課題を具体化したものを”対策”と呼ぶ。
 ”材料の調達”の例でいえば、次のような感じだな。」

 ・あるべき姿
  超小型電磁石が調達でき、試作品を作ることができる
 ・現状(問題)
  超小型電磁石が調達できず、試作品を作ることができない
 ・原因
  (1)超小型電磁石の価格が高騰し、当初購入を予定していたものは予算内で購入できない
  (2)超小型電磁石のうち、価格が低めで値段交渉次第では予算内で購入できるものがあるが、その部品では動作しない設計になっている
 ・課題
  下記を実施すること。
  (1)の課題:超小型電磁石のうち、価格が低めの部品について予算内になるよう価格の交渉を行う
  (2)の課題:価格の低い部品でも動作する設計に変更する
 ・対策
  (1)の対策:超小型電磁石のうち、価格が低めの部品について予算内になるような交渉条件を調達部と検討する
  (2)の対策:価格の低い部品でも動作するよう、設計のXXの部分をYYに修正し、その変更影響を確認する

「と、こう説明したが、問題と課題はあんまり分けて考えないほうがうまく行くことが、俺の経験上では多い。」
「問題と課題を混同しても良いと?」
「ああ。多くの人が、東條と同じように問題と課題の違いを理解していない。使い分けても、他の人たちと理解が一致しないことが多いんだ。いちいち説明しても良いが…面倒だろ。
 それに、課題と対策の線引きは曖昧だ。議論していることが課題なのか対策なのかがごっちゃになってしまうこともある。
 だから、俺はあえて問題と課題は一緒にして考えていいと思っている。
 つまり、あるべき姿と現状のギャップ、それが問題とか課題とか言われるもの、という考え方だ。」
「なるほど。違いを知ったうえで、一緒くたに考えているんですね。」
「さっきの例を置き換えると、次のようになるな。」

 ・あるべき姿
  超小型電磁石が調達でき、試作品を作ることができる
 ・問題/課題
  超小型電磁石が調達できず、試作品を作ることができない
 ・原因
  (1)超小型電磁石の価格が高騰し、当初購入を予定していたものは予算内で購入できない
  (2)超小型電磁石のうち、価格が低めで値段交渉次第では予算内で購入できるものがあるが、その部品では動作しない設計になっている
 ・対策
  (1)の対策:超小型電磁石のうち、価格が低めの部品について予算内になるような交渉条件を調達部と検討する
  (2)の対策:価格の低い部品でも動作するよう、設計のXXの部分をYYに修正し、その変更影響を確認する

「こっちのほうがシンプルだろ?プロジェクトなんかをしていると、課題管理は日々、多く行うことになる。ロジカルシンキングを課題管理に当てはめるときは、簡略化して実践したほうがいいだろう。
 課題管理は、ロジカルシンキングで課題が何であるか、原因が何であるか、対策は何であるかを考えるといい。
 それに加えて必要なのが、担当と期限だ。」

 課題:本来こうあるべきタスクが、今はこうなっている
 原因:課題の原因を明確にする。課題の解決は、この原因への対策が完了することが、課題解決の条件となる
 対策:原因を解消する具体的な行動
 担当と期限:誰が、いつまでに行動するか

 那須賀が続けて言う。
「課題管理とは、この4つをそれぞれの課題について明確にしていくことだ。東條も知っていると思うが、表ツールなんかで管理することが多いな。
 まとめると、ゴール達成のための確認と是正のために、スケジュール管理と課題管理を実践することが”3.仕事の管理”として必要なことだ。」


 これが、”3.仕事の管理”の最後の項目”3-3.ゴール達成のためのコントロール”についての那須賀からの教えであった。

 ***

 東條は那須賀から教わったこと、およびこれまで自分が実践してきた”3-3.ゴール達成のためのコントロール”について白川に伝えた。
「まずは、技の開発をプロジェクトと見立てて、ゴールとタスクを明確化してみてください。
 そして、進捗をスケジュールで管理し、課題
 は課題管理表を作って管理してみましょうか。」

 ***

 白川は東條に教わったことを実直に実施した。
 まずは、プロジェクトのゴールとタスクを明確化、明文化だ。

 ・プロジェクトのゴール
 3方向からの同時攻撃ができるようになる

 ・タスク
 1.白川による銃弾コントロールレーニン
  ①2つの小石を、狙った場所に置く練習(静止物の同時コントロール
  ②2匹の蜂を狙った場所に移動する練習(動きのある物の同時コントロール
  ③2つの銃弾をコントロールする練習
 2.黄原と紫村の連携トレーニン
  ①2人のポジション取りの明確化
  ②黄原に飛ばされた紫村の体勢制御練習
  ③黄原がどんな体勢でも紫村を飛ばせるようにする練習
  ④指示から3秒以内に連携する練習
 3.3
 人での連携トレーニン
  ①連携開始合図の明確化
  ②白川の銃撃と、黄原紫村連携のタイミングを合わせる練習
  ③反復トレーニング内容の明確化
  
 実際は、これよりもさらに細かいトレーニングタスクが書かれたタスク一覧を作成した。
 タスク表には、いつまでのタスクを完了するかの日付を入れている。
 このタスク表を元に、白川は、必殺技開発プロジェクトの管理を始めた。

 だが、物事はうまく進まないもので、いろいろなタスクで問題が生じた。
 だが、前と異なるのは、どう解決すべきか、課題管理によって考えられるようになった点だ。
 例えば、"黄原に飛ばされた紫村の体勢制御練習"では、どのように練習すれば良いのか、ということが分からず、つまずいた。
 これを課題管理し、課題、原因、対策、担当と期限、でアクションを決めた。

 課題
 ・紫村の体制制御の、トレーニング方法が明確でない
 原因
 ・どんな場所、状況で黄原に飛ばされるのかの想定がなく、黄原がどんな飛ばし方をするか分からない。
  そのため、紫村はどんな体制で飛ばされるか分からず、トレーニングができない
 対策
 ・状況のパターンを複数想定し、そのパターン毎の対策制御を練習できるようにする
 担当と期限
 ・白川がX月X日までにパターンを決める
 ・Y月Y日に黄原がパターン毎の飛ばし方を決める
 ・Z月Z日に紫村がパターン毎のトレーニング方法を決める

 課題管理により、やることが明確になってプロジェクトは進みだした。
 この調子ならば、"石"の移送までに技は完成するだろうと、白川は確信した。

 ***

 時間は流れ、東條の教えの効果もあって、赤崎も金城も白川も、曲がりなりにも指揮ができるようになってきた。少なくとも、サポートチームが片手間で担当していた代理指揮官よりは高いレベルで指揮ができるようになった。
 そして、西陣が東條に接触してきてから6ヶ月が過ぎ去った。

 エノトスとの総力戦となることが予想される、"石"の移送日がやってきたのだ。

★つづく★