凡人が成果を出すための習慣

残業ゼロで成果を出すには、どうしましょうか?

小説:ヒーローの管理職 第6話 自分の管理の章2

マネジメントについての連続小説です。

1話からご覧になりたい方は、下記のカテゴリー別一覧へ移動ください。

 

 ヒーローの管理職 カテゴリーの記事一覧 - 凡人が成果を出すために必要なこと

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 東條は、チームとしての連携の必要性を強く感じた。赤崎がやったような個人プレーでは、成果は長続きしない。あんな無茶な行動を続けていては、赤崎がいつか命を落とすかもしれない。
 アクティブリスニングが功を奏したのか、赤崎は少しながら思いを伝えてくれた。東條は、先ほどの赤崎の言葉を思い出しながら心でつぶやいた。
「赤崎さんは個人プレーをしてしまうが、思いは私と同じで”異能犯罪者をなくすこと”のようだ。チームで成果を上げることが、彼の思いを実現することに結び付けられれば良いんだが。…赤崎さん以外の隊員たちは、それぞれどんな思いで任務をしているんだろうか。少し聞いてみるか。」
 そう思い立った東條は、白川と黄原も個別に呼び、簡単な面談をすることにした。

 ”どんな思いでヒーローをしているのか”という名目で面談をすると、緊張して正直なことが言えないかもしれない。
 そのため、名目は、”東條にとって初めての司令官としての指揮であったため、そのフィードバックをもらう”という内容にした。
 東條は、できる限り本心を引き出すよう、那須賀に言われたアクティブリスニングとフィードバックを意識して、面談に望んだ。

 まずは、白川である。
 東條は会議室に白川を迎え入れた。
「白川さん、出動お疲れさまでした。」
「あ、いえ…現場が混乱していて、どうしたらいいかわからず、何もできなくて…申し訳ありませんでした。」
 前司令官からの情報と照らし合わせた彼女の印象としては、言われたことは自律的に、的確にこなせる一方で、一から自分で考えて行動することは苦手そうであった。今回の出動でも、指示通りいかなかったため足踏みをしてしまったようだった。
 ただ、それを差し引いても能力面の有能さと前向きである点から、ヒーローとして優秀な人材であるというのが東條の感想だった。
 東條は白川に対して首を振りながら言った。
「いいえ、謝る必要はありません。さて、私の指揮はどうだったでしょうか?」
「すいません、ありがとうございます。東條司令官みたいにターゲットを無力化するまでの手順を文章にして指示されたのは、初めてでした。とても分かりやすかったと思います。」
「まぁ、結局その手順の通りとはいきませんでしたけどね。私が甘かったです。」
 東條は自嘲的に笑いながら言った。東條が続ける。
「他に、もっとこうしてほしいとか、フィードバックはありますか?」
「いえ…司令官に対しては、こうしてほしいとかは、今のところないです。それより、もっと私自身が成長しなきゃって、そう思います。」
「なるほど。では、どんな風になりたいんですか?」
「もっとチーム雰囲気をよくしたいし、今日の出撃の時も何もできなかったので、そんなときも動けるようになりたいし、いろいろです。」
 東條は白川が"いろいろ"と言った部分を少し深堀してアドバイスを与えた。その後、こう続けた。
「…私も、雰囲気は良くしたいですね。司令官として、私が率先してすべきことですが、白川さんもご協力をお願いします。」
「はい!」
 良い流れと考え、東條は当初の目的であった質問をぶつけることにした。
「ところで、白川さんは、なぜヒーローになったのですか?」
「ええっと、流れ…ですかね。」
 白川はうつむき加減で、恥ずかしさをごまかすように笑いながら言った。
「高校生の時に能力が発現して、初めは少しだけ近くの物が動かせる程度だったんですが、練習するとどんどん難しい動きもできるようになったんです。それが嬉しくて、1人で練習しているうちに、親からはすごいすごいと褒められるようになりました。」
「すばらしいことですね。能力を持て余す人がいる一方で、白川さんはむしろ能力を好きになれたんですね。」
「はい。ですがある時、調子に乗って友達に能力を自慢したんです。蝶々のキーホルダーを生きているように、自由に動かして見せたんです。」
 東條は、この先の話の展開が少し読めたため、慎重に尋ねた。
「…友達の反応は…どうでしたか?」
 白川は悲しそうに答えた。
「気味悪がられました。東京から少し離れたところの学校ということもあって、そんなに異能を持つ人は周りにいなかったんです。だから、友達はみんな私から離れていきました。」
 異能の発現は”石”が作用していると考えられている。そのため、”石”がある場所から離れたところでは異能者は現れない。
 だが、たまに少し離れた場所で力が発現する場合がある。白川はそれに当てはまる異能者のようだ。
 白川は続けた。
「いじめがあったりしたわけじゃないんです。直接的には何もされていないんですが…それまで一緒に遊んでいた子も誘ってくれなくなり、表面上の会話だけで、みんなが私を避けているような…」
「疎外感、ですか。」
 東條が言った。
 こういった話は、異能者の境遇としては少なくない。人間は保守的な生き物である。異質なものは、本能的に排除しようとしてしまうものだ。異能者は東京では数を増やしているとは言え、それでも圧倒的マイノリティである。”特殊な自分”を周りから否定されることで、疎外感を感じる異能者も多い。それが異能犯罪者を生む最も大きな理由だ、という研究者もいる。疎外感ゆえに、自分の存在を誇示する目的で、犯罪などの行為を行ってしまうということらしい。
 幸運なことに、白川には無条件に肯定してくれる家族がいたため、間違った方向には進まなくてすんだのかもしれない。
 東條に疎外感について問われた白川は、答えた。
「確かに疎外感のようなものを感じていました。そこから、自分でも疎外感を感じずに生きていける場所はないかと思って、思いついたのがヒーローアソシエーションでした。そこには私と同じ異能者しかいないんですから。」
「なるほど。それで、ヒーロー養成所に入って、ヒーローアソシエーションに配属されたということですね。」
「はい。恥ずかしい話ですが、私は、そんな強い志があってヒーローになったわけじゃないんです。ただ、周りからの目を気にせずに生きられる環境で働きたいって思ったのがきっかけで…。もちろん、今は自分の能力が役立てばうれしいなって思っています。そんな感じです。」
「それも立派な志だと私は思います。話していただいて、ありがとうございます。」
 東條は、あいずちや話し方など、信頼関係を築く対応を心がけた。そのおかげか、白川からは貴重な意見を聞くことができた。

 白川は疎外感のない場所で、能力を生かしたい、そういった思いでヒーローをしているようだ。
 他にもそういうヒーローはいるかもしれない。東條は会議室を出ていく白川を見送った。

 次は黄原の番だ。白川の時と同様に、感謝を伝えることと指揮のフィードバックを求めた後、なぜヒーローになったのかを聞いた。
「私は異能の力で危害を加える奴らから、人々を守りたいんです。」
「なるほど。守ることが黄原さんのヒーローとしてしたいことなんですね。」
「はい。」
「…」
 大人しい黄原から、個人的な思いを聞き出すのは東條にとってはなかなか大変なことだった。
 白川の時のようにうまくはいかなかったが、あれこれ質問をし、黄原のヒーローとしての根幹と思われる、次のような思いを聞くことができた。
「私は、子供の頃に一度、異能者に襲われました。その時、私にはまだ能力は発現していませんでした。店で強盗を働いた異能犯罪者が、たまたまそこに居合わせた私を人質にとったんです。その時、私の両親も一緒で、私を守ろうと異能者を取り押さえようとしましたが、その異能者の力で大けがをさせられ、私はなす術もなく、ただただ泣いていました。」
「それは、怖かったでしょう。ご両親は…?」
「両親は今では回復して、健在です。ご心配はならさず。」
「すいません、無粋な質問をしてしまいましたね。続きを聞かせていただけますか?」
「泣いていた私を助けてくれたのは、ヒーローでした。私はその時に思ったんです。異能を持っていても、人を傷つけるためにその力を使う人もいれば、守るために使う人もいる。同じ力を持っているのに、皆を脅かして異能者の地位を貶める人もいれば、そんな悪い奴らから守って異能者の地位を上げる人もいるのは、なぜなんだろうって。」
「なぜなのか、分かりましたか?」
「…いえ、それは今でも分かりません。でも、何年か経って、自分に力が発現した時に、私は人を守るために使おうと、そう思いました。私を救ってくれたヒーローみたいに。私は、ヒーローを見て異能者はすごい存在だと子供の頃に思いました。そんな思いを、他の人々にも広げていきたい。だから、人々を守りたいんです。」

 黄原は純粋に人を守りたい、という理由でヒーローをしている。だが、黄原には他にも、異能者として人々を守ることで、異能者の有用性を世間にアピールしたい、そんな思いがあると東條は思った。

 赤崎は、なぜ1人の強さにこだわるのかは不明なものの、異能犯罪者をなくしたいという思いがある。
 白川は、疎外感のない場所で能力を生かしたい。
 黄原は、人を守り、異能者たちが社会に役立つことを見せていきたい。
 3名からそれなりの話を聞くことができた。那須賀からのアドバイスが、少なからず功を奏したに違いない。東條は、これからも信頼関係を築く行動を意識することを心に決めた。

 3名とも思いは様々である。東條は、チームをまとめるには、チームとしての方向性、"ビジョン"が必要だと思った。これは、"1.自分の管理"の次の項目である、"1-2.ビジョンを共有し続けること"の実践に他ならなかった。

★つづく★