凡人が成果を出すための習慣

残業ゼロで成果を出すには、どうしましょうか?

小説:ヒーローの管理職 第20話 メンバーの管理の章7

マネジメントについての連続小説です。

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 属人化の排除に、東條はすぐにとりかかった。次の出動要請から、4名体制で出動させたのだ。
 守り担当の隊員を2名にしたことで、3名の時よりも負傷は少なくなった。
 サッカーで言えばディフェンスが増えたのだ。得点力は上がらずとも、守備力は上がって然るべきである。

 だが、赤崎がいなくなって3日目、3回目の出動要請時には、予想通り出動要請と異能者からの襲撃が重なった。
 出動要請に4名が出払っている状態で、ヒーローアソシエーションへの襲撃が行われたのだ。狼男の時と同じ状況である。
 ただ、今までと異なるのは襲撃者に対応できる隊員が一名、少ないことだ。
 今襲撃者に対応できる2名は、黄原と紫村(しむら)である。
 紫村摩耶(しむら まや)。23歳。赤崎と同じ”超身体能力”の持ち主である。だが、赤崎のそれが強すぎることと、若手で戦闘経験が少ないということから、赤崎に比べると見劣りする。とは言え、スピードについては赤崎に匹敵するほどであり、彼女なりの持ち味はある。
 基本的には赤崎が休暇だったり、すでに出動中の時には紫村は前衛として出動する。赤崎と出動する時は守りか後衛で出動する。
 今回は、黄原とともに襲撃者に対し、武装を固めて守りの戦いを行う。
 いつ何時襲撃者が来るか分からないため、他の4名が出動した時点で、黄原と紫村の2名はすでに防御用の武装を装着していた。
 そのため、前回の金城のようなタイムラグなしに襲撃者がいるエントランスへ。
 東條は狼男の時と同様、一緒に現場へ向かった。

 東條は我ながら危うい作戦だと思った。赤崎が抜けた穴を短期的に埋めるには、人数を増やすしか思いつかない。だが、そのおかげでもう一方の戦闘チームの人数は減るのだ。
 だが、戦い方は同じではない。守りである。勝てなくて良い。負けない戦いだ。4名のチームがゴールを達成して戻ってくるまでの辛抱だ。
 2名+東條の襲撃者迎撃班のゴールは、他の4名が来るまで耐え忍ぶこと、または無力化はせずとも襲撃者を退散させることだ。
 こちらからはチャンス以外は攻撃を深追いせず、防御に徹する。

 エントランスについた東條は、襲撃者を見た。
 襲撃者は黒いフルフェイスマスクで顔を隠している。戦闘スーツらしきものを着用しているが、左腕の肘より下がヒラヒラと風にたなびいている。腕がないのだろう。
 その襲撃者は爆弾で警備部隊の詰め所を部分的に何か所か破壊した後、東條達3人が来るまで何もせず立っていた。
 まるで、ヒーローの到着をわざと待っていたかのように。

 東條は、狼男が自爆で使った携帯電話を思い出す。
 今回の襲撃者は、詰め所を何かで爆発させて攻撃している。南部と同じ”爆弾生成”の異能者か、その異能者に作られた爆弾を所持しているのだろう。
「黄原さん、前に出てください。爆弾です。まともに食らって無事でいられるのは、鋼鉄化した黄原さんのみですから。」
 東條は黄原に指示した。
「了解。」
 続けて東條が紫村に指示を出す。
「紫村さんは、銃撃でターゲットが入口側へ近寄れないよう、攻撃を。万が一近寄られたら、武装の防御シールドで相手の攻撃を防ぐよう、お願いします。」
「了解しました。赤崎先輩みたいにはうまくはできませんが、先輩が帰ってくるまで、同じ前衛の役割として耐えてみせます!」
 紫村はまだ若く、戦闘経験が浅い。そのためか強い赤崎を慕っている。赤崎がいるときは赤崎の絶対の安心感に身を委ねていた節があったが、彼が入院してからは紫村にも前衛としての責任感が芽生え始めたようだ。
「お2人とも、よろしくお願いします。」
 東條は言葉を返した。

 片腕の襲撃者は、爆破して散らばった詰め所の破片を拾う。破片を握りしめ、突撃してきた。東條は一瞬、相手が破片を爆弾に変えて自爆でもするのかと思った。だが、違った。
 爆弾化したと思われる破片を、手を開いて掌底のような形で黄原へ叩きつけようとした。だが、距離がある。黄原にその掌底は届かない。が、次の瞬間、破片が爆発した。しかも、指向性を持った爆発だ。つまり、襲撃者側には爆発の衝撃はなく、黄原のいるほうにだけ爆撃が襲う。
 鋼鉄化していた黄原は、少し距離のある爆発ということもあって持ちこたえた。だが、爆破の煙にまぎれて襲撃者が黄原との距離を詰める。襲撃者は懐から取り出した石のようなものを黄原に押し付け、爆破させた。黄原は吹っ飛んだ。
「これでも無傷か…。相性が悪いな。」
 襲撃者がつぶやく。

 東條は、驚いた。
 指向性の爆弾生成能力、爆破の煙に乗じて追加の攻撃を行うその戦い方。”悪夢の日”まで一緒に戦っていた、南部と全く同じである。
 そして、その声も、記憶にある南部の声と酷似していた。
「南部なのか!?」
 東條は叫んだ。
「南部って、赤崎先輩の先輩の!?」
 紫村は赤崎から南部の話を聞いていたのだろう。彼女が驚いた様子で反応した。
 片腕の襲撃者は答えた。
「…久しぶりだな。東條。」
 南部播次(なんぶ ばんじ)。東條とともに西陣を止めた男。左腕は無くなったようだが、彼は生きていたのだ。
「生きていたんだな!なぜこんなことを!?」
「今、話している暇はない。俺たちは戦っている最中なんだ。」
 そう言うと、南部はこちらへ突撃しようとする。だが、紫村の銃撃がそれを阻む。
「若そうだが、なかなか的確な銃撃だな。…北折が怪我してなけりゃ、加地の時みたく銃弾を消してもらえたが…。まぁ、いいだろう。」
 南部はそう言うと、懐から石を出した。確実に爆弾だろう。
 そして、それを自分と東條達がいる地点の間に投げつけた。
 石は爆発し、あたりに爆風で土煙が上がる。
 東條は南部が目の前にいるという衝撃を受けたものの、司令官としての責任感から我に返った。
 南部はこの煙に乗じて、必ず距離を詰めて攻撃してくる。東條はそう考えた。
 予想通り、南部が東條と紫村へ迫る。煙の隙間から、南部が見えた。すでに距離が近い。東條はとっさに、南部を停止させる。
 南部の動きが止まる。だが、南部が止まっても、突き出した手のひらにある爆弾化された石が、慣性で東條達の元へ投げ出される。
 東條の能力を知り尽くした南部は、自分が止められることも予想済みで行動しているのだ。
 爆弾が転がる。
「東條司令官、後ろへ!」
 紫村が懸命にシールドで自分と東條を守る。
 爆弾が爆発する。
「きゃっ!」
 爆弾が近かったせいか、予想以上の威力で少し吹き飛ぶ。紫村が小さく声を上げた。
 シールドで致命傷は防げたものの、体感する衝撃は大きい。肉体的ダメージは、今は少ないが、一撃でもまともに攻撃をもらうと、致命傷だ。
 死の恐怖を感じる。紫村は少し後ずさってしまう。
「赤崎先輩の先輩なんですから、めっちゃ強くて当然ですよね…」
「紫村さん、私も赤崎さんの先輩ですよ。
 大丈夫、私と黄原さんと、あなたの力を組み合わせれば、負けはしません!」
 東條は知っている。南部は強い。”悪夢の日”まで西陣が率いていたヒーローチームは、歴代最強とうたわれていた。南部はその中でも、戦闘チームの一翼を担っていたのだ。
 明らかに分が悪い。だが、何度も言うようにこれは勝つための戦いではない。負けない戦い、耐え忍ぶ戦いだ。
 さらに、救いは、彼が隻腕であることだ。全盛期の五体満足の南部であれば、東條達は負けてしまっているかもしれない。
 黄原と紫村の守りと、東條の”停止”を組み合わせ、懸命に南部の攻撃を防ぐ。

「南部、なぜだ!なぜこんなことをする!?」
 戦いながらも、東條は答えを知りたくて、南部に問いかける。
「…しつこい奴だ。戦っている最中だって言ってるだろ。」
 そんな不毛な会話の後、ようやく4名の戦闘チームが任務を完了して戻ってきた。
 東條を入れるとヒーローは7人。圧倒的に有利だ。
 4名の増援を見て、南部は首を傾けて、ため息をついた。
「これは多勢に無勢だ。さすがに時間をかけすぎたか。」
「南部…答えてくれ。」
 東條が再び聞く。
「…ビジョンだ。俺たちエノトスのビジョンは、お前のそれと違うんだよ。
 北折、撤退だ。」
 そう言うと、南部の前に、これまたフルフェイスマスクを被った男が現れる。テレポートだ。
「じゃあな。」
「待ってくれ!」
 東條は叫んだ。だが、南部ともう1人の異能者は2人でテレポートし、消えてしまった。

★つづく★