凡人が成果を出すための習慣

残業ゼロで成果を出すには、どうしましょうか?

小説:ヒーローの管理職 第18話 メンバーの管理の章5

マネジメントについての連続小説です。

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 狼男の襲撃現場近くの路地から、テレポートで退避した北折は自分の腕の傷を見て、ぼやいた。
「くっ、痛いな。よりによって利き手か…。しばらく銃弾みたいな細かいもののテレポートは難しくなるな…。」
 白川の銃弾のうちの一発が、テレポートする前の彼の腕に到達していたのだ。
 彼は利き手の右手をテレポートさせるものに向け、テレポートさせる。銃弾を受け、右腕が動かしずらくなってしまった。
 止血をしながら彼はつぶやく。
「加地、お前の戦い、見事だった。ヒーローの1人に結構なダメージを負わせたんだ。お前の死は無駄にはしない。」
 北折がテレポートで退避した先にいた、もう1人の男が話す。その男は左腕の肘より下がない。
「北折、このまま少しずつヒーローの戦力を削っていこう。そして、削りきったところで"石"の強奪を仕掛ける。」
「ああ。また、爆弾を作ってくれ。加地の時と同様、万が一の場合は自爆が必要だ。ヒーローに捕まってしまうと精神を読まれて、こちらの計画がばれる可能性がある。それに、爆弾は武器としても使えるしな。」
「ああ。…次は、俺が行こう。」
 左腕が無いその男は、暗い目をしながらそう言った。

 ***

 戦いから一夜明け、赤崎のいない2週間が始まる。
 まだ調査中ではあるが、襲撃者であった狼男についての情報が一部、明らかになった。
 名前は加地崇(かじ たかし)、22歳。彼には前科がなかったようだ。異能が発現したのは5年前とのこと。中学生の時であり、当時の彼は能力を制御できず、たびたび変化(へんげ)を日常生活でしてしまう状態だったらしい。そのせいで、大変な差別にあったらしい。
 エノトスとの関係については詳しくは判明せず、今のところは組織の詳細についてはコミュニティサイトのこと以外はよくわかっていない。要するにエノトスを明らかにすることについての成果はないということだ。
 狼男は最後に言った。エノトスはこれからも”石”を狙い続けると。それは、組織的にヒーローアソシエーションに戦いを挑み続けるという意味だ。また今日にでも襲撃があるかもしれない。
 だが、チームのエースである、赤崎はいないのだ。
 東條は、すぐに属人化の排除に取り掛かることにした。
 とは言え、何からすべきか。
 ノートを眺めながら、考えを整理する。
 またも那須賀との会話に思いを馳せる。

 ***

那須賀さん。属人化っていうのは、ある業務を特定の人しかできない状態にしていることを言うんですよね?」
 東條が那須賀に問いかける。
「そうだな。例えば、昔からその人がやっていて、今ではその人しか手順を知らないオペレーションとか、難しすぎて1人しかやり方を理解していない作業とか、そんなんだ。」
「属人化の排除っていうのは、それを無くすことなんですね?」
「その通りだ。属人化はチームにとって好ましくない。理由は二つある。
 一つは、チームの安定性が悪くなることだ。
 もう一つは、チームがより生産性の高い時間を使えなくなることだ。」
「一つ目のチームの安定性が悪くなるというのは、特定の人だけしかできない業務があることで、その人がいなくなった時に業務が回らなくなる、ということですか?」
「ああ。その人がいなくなるというリスクもあるが、いなくならない場合でも、リスクがある。特定の人に業務が集中して、ボトルネックになる可能性があるんだ。基本的に、優秀な人間ほどできる業務が多いので、自ずとチームの中核をなす人間に仕事が集まる。つまりは、そういう人間ほどその人にしかできない業務を持っている。
 彼らがいなくなったらチームとしてピンチだ。また、いなくならないとしてもその人に業務が集中していると、チームの成果がその人のキャパシティに左右されてしまうことになる。
 ようは、優秀な奴1人に頼っているチームよりも、その60%の能力でチーム全員が同じように仕事ができるチームのほうが安定して成果が出せるってことだ。もちろん全員が優秀なチームに越したことはないが…そんなのは滅多にないからな。」
「ですが、多様な人材がいます。属人化を排除してみんな同じことをさせるよりも、それぞれに得意なことをさせるほうがいいんじゃないでしょうか?」
「東條の言う通り、人は得意なことをする方が生産性が上がる。だが、得意なこと以外も業務としてしないといけないだろ?
 複数のプロジェクトをこなすこともあるだろう。得意な分野の業務ばかりではなく、そうではない分野を任されることは往々にしてある。
 そして、そこにもう一つの属人化の悪い点が隠れている。」
「先ほど言っていた、"チームがより生産性の高い時間を使えなくなる"というやつですか。」
「ああ。ある人が得意でない業務が、その人に属人化していたらどうなる?」
「得意でない業務に手を取られてしまうことになりますね…何せその人しかできないのですから。」
「つまり、メンバーが得意なことに集中できるようにするためには、そうでない仕事を誰もができるようにしないといけない。長所を活かすために属人化の排除が必要なんだ。」
「でも、それって他の人に仕事を押し付けるということになるのでは…?」
「個人の仕事をチームでできるようにする、という点で考えると、仕事をみんなで分け合うことになる。東條の言うように、仕事を押し付けあうという考えを持ってしまう者もいるだろう。
 だが、属人化を排除した業務は、さらに良いことを生む。チームの外に業務を出せるんだ。
 完全に属人化が排除された業務なら、誰でもできるはずだ。それこそ、アウトソーシングやロボットでの自動化なんかで業務を安価な役割へ移すことができる。そうなれば、チーム全体が誰もができるような作業から解放され、より生産性の高いことに時間を避けるようになる。」
「属人化の排除をすると、
 ・特定の人間に集中した仕事をチーム全体に分散できることで、チームの安定性が上がる。
 ・その特定の人間はコアメンバーであることが多いため、コアメンバーがより生産性の高いことに時間がさけるようになる。
 ・そして、属人化した業務をチーム外に出すことで、チーム全体が生産性の高いことに時間がさけるようになる。
 そういうことですか。」
「すばらしいまとめ方だ。その通り。
 では、属人化をどうやって排除するかを、次は話そうか。」
 那須賀は、東條に4つのステップを伝えた。

 属人化を排除する4つのステップ
 ①業務の見える化
 ②属人化している業務の特定
 ③属人化している原因の特定
 ④対策実施

「この4つが、属人化を排除するためのステップだ。
 属人化を排除するには、まずは何が属人化しているのかを見極めないといけない。その第一歩が、"①業務の見える化"だ。
 どんな業務があるのか、というリストを作るイメージだな。メンバーにヒアリングをして、属人化していると思う業務や、自分だけがずっとやっている業務の一覧を作るんだ。」
「属人化していそうな業務を洗い出す、ということですね。」
「そうだ。その次が、”②属人化している業務の特定”だ。見える化した業務から、本当に属人化している業務を特定する。そして、”③属人化している原因の特定”でなぜ属人化してしまっているのかを考える。業務の流れをプロセスごとに分けて、整理するんだ。
 例えば、何かの製品を製造する場合の一般的なプロセスについて考えてみようか。そうだな…新しい自転車で想像してみよう。
 俺は自転車を作ったことがないから想像だが、こんな感じのプロセスになると思う。」

 ・要件定義(どんな自転車を作るのか決める)
 ・設計(自転車の設計図を作る)
 ・試作製造(自転車のプロトタイプを作る)
 ・テスト(設計通りか試す)
 ・製造(量産体制を整える)

「実際は、各プロセスがもっと細かく分かれているはずだが、例なので分割はこのぐらいにしておこう。
 自転車作りの名人がいたとしよう。その人のどのプロセスにおける行動が名人と言わしめるのか、分析するんだ。
 例えば、要件定義のプロセスで、何度も要件をターゲット層に効果的なヒアリングしているとしよう。それが、名人がニーズに合わせた自転車を作る行動になっているという仮説を立てる。
 その場合、”ターゲット層に効果的なヒアリングをする”ということが名人のみが行っていることになる。
 他にも、名人は試作製造が速いという点があるとしよう。分析すると、試作製造に入る前の設計段階で部品を発注しているという行動が見つかったとしよう。
 その場合、”設計段階での部品発注”が属人化している行動になる。」
「プロセスに分けて、属人化している行動を見つける…と。」
「ああ。業務を分析し、どの部分がその人にしかできない状態になっているのかを特定するんだ。
 そして、行動が属人化しているとき、大体は次のどちらかのことが原因だ。」
 那須賀は東條に下記をメモするよう伝えた。

 属人化の主な原因
(1)やり方が共有されていない
(2)スキルが足りない

 那須賀が続ける。
「1つ目の”やり方が共有されていない”は、業務の手順や手続きが共有できていないがゆえに、やり方を知っている人しかできない、とうパターンだ。これ、属人化を排除するにはどうしたらいいと思う?」
「手順を共有する…つまりは手順書やマニュアルを作るということですか。」
「単純に手順に落とせるものであれば、手順書・マニュアルを作れば済む話だ。それを作るのが面倒だとか時間がないとか、そういった原因で属人化していることが多い。これは、手順を周知さえすれば他のメンバーがこなせるので、属人化排除の即効性が高い。
 マニュアルは作業している本人が作ることが一番手っ取り早いので、『作ることで自分の作業を他のメンバーに共有できる』というメリットを伝えて、本人に手順を作ってもらうのがいい。
 では、原因の二つ目である、”スキルが足りない”について話そう。これは、言い換えると技能的にそのメンバーにしかできず、他のメンバーができなくて属人化しているということだ。東條、この対策はどうしたらいいと思う?」
「スキルがないのですから…スキルアップですか?」
「そうだ。トレーニングしてスキルアップさせ、できるようにするしかない。
 そのためには、どんなスキルが必要で、どうやったらそのスキルが身に付くのかを明確にする必要がある。」
「明確化のために、業務の見える化同様、属人化したスキルを持つメンバーにどんなスキルがいるかをヒアリングするんでしょうか?」
「それはあまり有効ではないな。多くの場合、メンバーは自分でできてしまっていることは、なぜできているのかがわからないからだ。トップセールスマンがいたとして、その人がなぜ多くの売り上げを上げているのか、言語で説明でいる人は実は少ない。スポーツのプレーヤーも、プレーヤーのころに活躍した人でも、監督やコーチになったらあまり成果を出せない人がいる。これは、なぜ自分が成果をあげられていたのかを、わざわざ分析なんてしないからだ。だって、できているんだから。」
「なるほど。では、どうしたらよいでしょうか?」
「何のスキルが必要か、を明確にするには、コアメンバーやハイパフォーマーの行動を分析する必要がある。コアメンバーにあって、そうでないメンバーにないものを探すんだ。
 例えば、トップセールスマンは顧客との信頼関係が上手いと聞く。では、信頼関係を得るためにどんな行動、スキルが必要なのかを確認するんだ。
 行動を観察し、行動の考えを聞いて、キーとなる行動を見つける必要がある。そのキーとなる行動を他のメンバーに実践させ、繰り返し実施するよう促すんだ。
 そうすれば、コアメンバーのパフォーマンスに近づく。すなわち、”スキルが足りない”という属人化の排除に近づく。」
「でも、例えば野球において、ある投手がすごいフォークボールで相手チームの得点を封じているとします。そのフォークボールってすぐには他に人が身に付けることはできないですよね?」
「その通りだ。業務は、属人化を排除できるものとできないものがある。そのフォークボールの例は、その投手の長所であって、完全な属人化の排除はできないものになる。だが、その投手の投球フォームや、練習、行動を観察することで、その投手の60%ぐらいの完成度の球は投げられるかもしれない。プロ野球では60%では使い物にならないかもしれないが、ビジネスにおいては60%の完成度でも、他のメンバーでもできる、という状態が重要なんだ。そのコアメンバーが万が一いなくなった時にも、他のメンバーで60%だとしても業務が続けられる。
 さっき言っただろ?優秀な奴1人に頼っているチームよりも、その60%の能力でチーム全員が同じように仕事ができるチームのほうが安定して成果が出せるって。
 もちろん、すぐに属人化を排除できないものもある。難しい技能であればあるほどそうだ。だが、その身に付け方が明確になっていなければ、永遠にコアメンバーに業務は属人化する。」
「必要スキルを明確化する必要がある、と…。スキルの身に付け方を明確化するって、おすすめの方法ありますか?」
 ふむ、と言って那須賀は東條に下記を伝えた。

 方法①
 ・知識を得られるようにする(ティーチング)
 ・アウトプットできるようにする(トレーニング)

 方法②
 ・コアメンバーのパフォーマンスに近づける仕組みを入れる

「基本はこの二つの方法だ。まずは方法①のティーチングとトレーニング。例えば、野球のフォークボールの投げ方を教えるのがティーチング。実際に投げられるようにアウトプットさせるのがトレーニングだ。
 仕事で言えば、知識が書かれた書物や資料などを用いて知識を伝えることがティーチングだな。そして、それを実践する場を与えるのがトレーニングだ。実践する場は、基本的には実業務になるだろう。
 インプットして、アウトプットする。本を読んだりして、知識をインプットだけして満足する者もいるが、それでは身に付いたとは言えない。筋肉と同じで、繰り返しアウトプットしてトレーニングしないと、スキルは身に付かない。
 方法②はパフォーマンスを上げる仕組みを作ることだ。例えば、単純に人を増やすとか。コアメンバーの業務実施やパフォーマンスに、他のメンバー1人では同様のことができないとしても、2人なら近い成果が出せるかもしれない。」

 東條は、ノートに教わったことをまとめた。

 属人化を排除する4つのステップ
 ①業務の見える化
 ②属人化している業務の特定
 ③属人化している原因の特定
 ④対策実施

 属人化の主な原因(③で特定するもの)
(1)やり方が共有されていない
 対策:マニュアル
(2)スキルが足りない
 対策:コアメンバーの行動を分析し、必要なスキルを明確化する

 スキル不足が原因の属人化排除方法
 方法①
  明確化したスキルを下記の方法で身に着けられるようにする
  ・知識を得られるようにする(ティーチング)
  ・アウトプットできるようにする(トレーニング)

 方法②
  ・コアメンバーのパフォーマンスに近づける仕組みを入れる

 ***

 東條は那須賀に言われたことを用いて、チーム内の属人化の排除に挑むことにした。

★つづく★