凡人が成果を出すための習慣

残業ゼロで成果を出すには、どうしましょうか?

異世界×プロジェクトマネジメント 第9話『数値表現すべし』

プロジェクトマネジメント知識をライトノベル感覚でお伝えする小説です。
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暫定対策として、プロジェクトの途中成果は上々。
だが、とても後味の悪い夜が終わった。

メグの様子が気になったが、戦いの後のメグは落ち着きを取り戻していた。
ジュドーにも迷惑をかけたためか、メグは事情を話した。
ジュドーは、静かに話を聞いた後にこう言った。

「いろいろあったんだな。
 だが、俺たちの目的はゾームを倒して王都の平和を守ることだ。
 次の満月は、頼むぞ。
 …とは言え、エルザスのことで協力できることがあれば、言ってくれ」

ジュドーはどこまでも人の好い男である。
そう、ヒロは思った。

ゾームが襲ってくる初めての満月の夜を終え、ヒロは止まっていた次のフェーズの費用説明の検討に入った。
王国の経理担当である、リーガルを納得させねばならない。

プロジェクトの効果説明には、論理的にメリットを数字で示すほうが良い。

元の世界において、ヒロはプロジェクトで目的を達成する効果を数字で説明することが多かった。
例えば、システムを導入して人間が行っている作業を効率化することで、年間10人分の人件費が抑えられ、結果的に何百万円のコスト削減になると言った具合である。

今回も、プロジェクトに必要な費用について、もっと詳細に費用対効果の説明をしようと考えていた。

この説明において、ヒロは残酷な方法で費用を説明することを考えていた。
それは、死人を費用として換算することだ。

元々、ヒロはこの満月の夜で、少なくとも犠牲者が出ることを想定していた。
なにせ、ジュドーたち冒険者が戦いにおいて犠牲者をゼロにすることは困難だと言っていたからだ。

ゾームとの戦いで出てしまった死人、重傷者。
それらをコスト換算し、兵器構築のほうが安いと認識させる。

これが、王国経理のリーガルへの、ヒロなりの対策であった。

ヒロは、ギルド事務所にてレインに声をかける。

「レインさん、いくつか、調べて欲しいことがあります」

 

リーガルとの、次フェーズに関する2度目の会議が開催された。
リーガルが開口一番に費用について尋ねる。

「ゾーム討伐に必要な費用について、減額を検討してくれましたか?」

ヒロは、静かに答える。

「検討しました。
 検討しましたが…費用は下げられません」

下を向いて資料を眺めていたリーガルが、その言葉を聞いてヒロに向き直る。

「それは、どういうことでしょうか?」

「現在ご提示している費用を、国庫から出していただきたい。
 そういった依頼となります」

「それは、承認できないと申し上げたはずですよ!
 何を検討されたのですか!?」

「検討結果を、これよりご説明します」

ヒロは、数字を黒板に書きつつ説明する。

「先日の満月、ゾームとの戦いにおいて、残念ながら死傷者が出ました。
 3名死亡。
 3名重傷」

「ええ。それは存じておりますとも。
 重傷者の2名は王国兵団の兵士ですから」

「そう、冒険者4名に王国兵士2名です。
 重傷者も、かなり深い傷で元通りに冒険者や兵士として活動できるようになるかは、望みが薄いです。
 つまり…この国の兵力が落ちたのです」

「その通りです」

「どれだけの兵力が落ちたのか、費用に換算しました。
 犠牲になった冒険者のランクはいずれも3。
 一般的にそのランクの冒険者になるまでには、4年の期間と2000万レムの費用がかかります」

「…それはどういった計算の結果なのでしょう?」

「そのランクになるまでに冒険者が得るギルドからの依頼料と報酬は、年間で約500万レムです。
 ようは、この国が、街が、ギルドが、彼らに投資をして、経験を積ませることで彼らはランクを上げているのです。
 依頼をこなすことによる実践経験が、最も冒険者を成長させますから。これはジュドーさんからの受け売りですが」

報酬とランクの関連はレインに調べてもらった。
やはり彼女はとても優秀なプロジェクト補佐だ。

リーガルは眼鏡を上げつつ、黙って聞いている。
ヒロは続けた。

「兵団の兵士の平均的な年間給与も、大体500万レムとランペルツォン殿から伺いました。
 そして、重症になった兵士の方は配属されて4年目の兵士ですよね。
 つまり、これまで彼に2000万レムがかかっている」

リーガルが答える。

「概ね、合っています」

「一人当たり、2000万レム。
 6人が犠牲になったので、1億2000万レムの兵力が、今回失われたのです!」

リーガルは眉を上げたまま、黙った。

 

ヒロは言葉を続ける。

「今回の満月における暫定対策は、費用は安かったかもしれません。
 が、毎回1億2000万レムが失われる恐れがある」

「年間では、六回の満月…
 36人の犠牲…
 7億2000万レムが失われる、と…」

「その通りです。
 プロジェクトの目的は犠牲者を3人以下に抑えること。
 このままでは6人犠牲が出るところを、半分にできます。
 兵器は一基当たり1000万レムで構築できます。
 10基作っても、1億レムです。
 つまり…」

ヒロは少し間をおいて言う。

「1億の投資で、年間18人が助かる!
 一人あたり2000万レム、3億6000万レムが削減できるのです!
 兵力を費用換算すれば、兵器を作らないほうがこの国の財産を圧迫する!」

ヒロは力を込めて言った。
リーガルは手元の紙とヒロの顔を交互に見て、悩んでいる様子だ。

だが、それでもリーガルは引き下がらない。

「では、犠牲者が減るようにランクの高い冒険者を低賃金で強制的に使役するというのは…」

「それは、余計にまずいですよ。
 冒険者達のモチベーションは下がります。
 実力は発揮されないかもしれません…。
 それに、もし高ランクの冒険者が死傷すれば…
 その兵力は一人で1億レムを超えます。
 そんな損失を、リーガル殿は許せるのですか?」

リーガルは目をつぶり、ぶつぶつを口を動かした。
しばらくして、ヒロの目をまっすぐ見た。
そして、静かに話を始める。

「…確かに。ヒロ殿の言うとおりではあります。
 一人が犠牲になると2000万レム…そんな費用算出があるとは…。
 兵団の兵士が減れば、さらに補充をする必要があります。
 そなれば、ヒロ殿が言った費用と期間がかかる…。
 それは…事実です」

ヒロは小さな声で言った。

プロジェクトマネジメントの極意。数値表現

この世界のビジネスにおける知識は、ヒロが元居た世界に比べると数百年遅れている。
いろいろなものを数値で表現して比較するということ自体に、目が向いていないのだ。

ビジネスにおいては、数値での表現が論理的でわかりやすい表現となる。
数値でメリットを表すこと。これはプロジェクトの承認を得るには必要なスキルなのだ。
とは言え、人の命を数値で表すなど、ヒロにとっては初めてのことだったが…。

結果的に、リーガルは次のフェーズの費用を承認してくれた。
彼には、数値表現は効いたようだ。

プロジェクトは次のフェーズへ進んだ。

 

★つづく★