凡人が成果を出すための習慣

残業ゼロで成果を出すには、どうしましょうか?

優秀な人と協働したいなら、自分も優秀になろうとする必要がある

ある企業に、橘という女性がいた。

マネージャーとして、数人のチームを率いて業務をこなす。

適切なマネジメントを行い、メンバーから信頼されていた。

同時に上司からの信頼も厚かった。

 

上司からの信頼の源は、なにより、彼女がとても建設的に仕事をする人間ということだ。

 

彼女は自分のチームに与えられたミッションを責任をもって進める。

きちんと計画し、計画通りにこなす。

計画通りにならないことはもちろんあるが、上司に遅れることも報告し、リカバリー策を実施する。

 

元々、彼女のチームが持つ仕事の領域は広い。

だから、いろいろな他のチームと協力して進めるものが多い。

逆に、他のチームからの協力要請も多かった。

 

***

 

彼女は頭を悩ませていた。

最近、他のチームから依頼される緊急の仕事が多い。

急な依頼が来た時は、もちろん、橘は依頼主になぜその納期になのか、遅らせられないのか、理由や背景を聞くことにしている。

 

「来月末までにと依頼されたこの仕事ですが、もう少し早く言ってくれないと、こちらのリソースの手配もあるので大変なんですが…」
 
「橘さん、ごめんなさい。
 この件は、半年前から実行することが決まっていたんだけど、なかなかこっちのチームの工数が取れなくて…
 結局、動き出せたのが今月からになってしまったから、依頼もギリギリになっちゃったんだ。
 でもこれ、社長の肝いりの案件だから、なんとか頼むよ…」
 
こんなことが最近多かった。
どれだけ自分が自分のチームのプロジェクトをうまくマネジメントしても、全く予想外の場所から急な仕事が舞い込んでくる。
そしてそれは、別のチームのマネジメントの不備によって急な納期になっているように思えた。
 
それでも、橘は建設的に仕事を続けた。
そんな急な仕事はできないと断ることもできた。
だが、彼女は他チームと壁を作るのは嫌だったのだ。
業務に壁を作って閉鎖的になり、協力しない人々を橘はこれまで嫌と言うほど見てきた。
そんな人間にはなりたくなかったのである。

 

だが、そんな仕事があまりにも増えてきたのだ。

自分もメンバーも多忙になりすぎて疲弊してしまうのは、長い目で見ると継続的な成果にはならない。

よって、振られた仕事については、優先度を聞いた。

相手が優先度について良くわからない場合は、上司に確認して、今の他の橘の業務とどちらが優先度かを判断させた。

全部優先ならチームに新しく人をアサインしてもらった。または外部委託の許可を得た。

ただ、人が増えてもすぐに戦力になるわけではないので、現実的なスケジュールを毎回伝えた。

それもできない場合は、現実的な折衷案を上司や他のチームと相談した。

そうしなければ、自分も、自分のチームのメンバーも疲弊してしまう。

橘は、マネジメントを実直にし続けた。

 

が、マネジメントの仕事でどんどん忙しくなった。

周りのチームのマネジメント不足が原因なものが多いため、橘はさすがに不満を抱いた。

そうして、上司に相談した。

 

「橘か、どうした?」

 

「課長。最近、他のチームからの急な依頼が多すぎます。
 理由を聞くと、そのチームが他の案件に集中して放置していたからギリギリになった、とか
 適任がいないから、私のところで引き取ってほしい、とか
 そんなんです。
 他のチームのつけを、私のチームが補填しているように思えてしまうのですが…」
 
「そうだな。
 それは分かっているんだ。
 俺も他のチームに対して、もっとちゃんとするように言ってるんだがな。
 でも、なかなかあいつら向上しなくてな。
 すまんが、サポートをもう少し頼むよ。
 橘がいつか課長になる時には、こういった大量の仕事をどうマネジメントするか、ということに直面するかもしれないから、訓練の機会だと思って、な?」

 

橘は会社のためと考え、引き続き建設的に仕事をつづけた。

自分に他チームからのつけが回ってこないよう、他チームのマネジメントにも入ってみた。

それはある程度効果はあったのだが、全部の仕事でそんなことはやってられない。

 

とは言え、橘チームのスキルは上がっていった。

橘のチームでしかできないことはそもそも業務領域的にある。

加えて、他のチームでは難易度的にできないことも、橘のチームならこなすことができる。

他のチームからすれば、頼もしい協力先がいるという認識になり、仕事は橘チームに集まる。

 

一方で、代わりに橘チームの業務をどこか他のチームに移したくとも、他のチームは受け取ろうとしなかった。

できるのであれば、そもそも橘チームに仕事を振ってない。

 

そうして、橘チームの成果は大きくなっていった。

橘は出世コースにいるように思われた。

 

だが、橘自身は違和感を感じていた。
周りからくる仕事はマストな仕事であって、橘がしたい仕事ではない。
橘はチームのメンバーに、または別のチームが仕事をできる状態にして、仕事を任せていった。
だが、減ったそばから新しい仕事が湧いてくる。
 
本当は、橘は改善業務がしたかった。
だが、降ってくるのは下記のようなもの。
ギリギリまで放置された案件。
難しすぎて誰も手をつけようとしない案件。

 

本来、そんなものが出ないように課内業務を改善をしていきたい。

だが、優先度が高いからと他の案件を突きつけられるのだ。

橘の違和感は強くなっていった。

難しいこと、チャレンジは好きだ。充実感がないわけではない。

だが、今のままでは本当にしたいことは一向にできる気がしなかった。

 

上司や他チームののマネジメント不足で自分のチームが苦しまないよう、自分で補ってきた。

だが、自分のキャリアを犠牲にし続けている感覚になった。

 

そうして橘は転職を決意した。

 

***

 

課長である辛坊は驚いた。

橘から急に転職を切り出されたからだ。

 

辛坊にとって、橘はとても優秀な部下だ。

どんな仕事でも、成果を出してくれるように思っていた。

もちろん、橘のキャパシティは無制限ではないにせよ、なんだかんだでうまくやる人間に見えた。

 

だから、辛坊も他のチームも橘に甘え続けていた。

辛坊からすれば、橘はやりがいを持って機嫌よく仕事をしているように思えた。

そして、辛坊自身もある程度マネジメントをしている自負はあった。

 

だからこそ、橘の転職には驚いた。

 

転職を切り出された辛坊は、橘にこう返した。

「なぜ?転職を?」

 

「はい。自分のしたいことができない気がして…。

 最近は他のチームの仕事も来るようになって、そもそもの自分のチームの仕事と相まって優先度の高い業務ばかりになっています。

 このままじゃ、永遠に優先度の高い業務をし続けることになりそうで…。

 本当は、そんな業務が出てこないように課内の業務改善をしようと企画を考えていました。

 以前、課長にも企画についてお話したことがありますよね?」

 

「ああ。あの課内業務改善企画か。

 だが、他の優先度の高い案件が多いから、今はそっちをこなしてほしいと指示したんだったな…。

 それがしたくて、転職するのか?」

 

「はい。今の仕事にやりがいは感じますが、やはり自分のしたい事をしたいんです。」

 

「会社で働いてるんだから、会社組織としてなるべきことがある。

 だから、個人のしたいことは簡単にはできないかもしれない。

 でも、課内業務改善ならいつかここでもできるだろ?

 忙しくても、そのしたい事ができるように仕事を調整してだな…そうやって自分のしたい事を出来るようにするのも、マネジメントの仕事のうちだと思うぞ。」

 

「そうですね。そう思います。だから、私は働く環境を変えて好きなことをできるようにするんです。」

 

「…」

 

結局、橘は会社を去った。

 

***

 

優秀な人間は、マネージャーからするとマネジメントがいらず、とても楽だ。

だが、優秀な人間は、満足のいく仕事ができなければ必ずマネージャーの元を去る。

優秀な人が満足のいく仕事をできる場、というのは、往々にして優秀な人同士で協働し合う職場である。

だから、優秀な人は集まる傾向にある。

そこは魅力的な職場に見え、さらに優秀な人材を呼ぶ。

 

辛抱も他のチームのマネージャーも、彼らなりにマネジメントはしていた事だろう。
だが、橘からすると足りないように見えた。
主観的ではなく、客観的に優秀でなくてはならないのだ。
 
だから。
優秀な人と協働したいなら。
優秀な人間を残したいなら。
自分も優秀にならねばならない。
その人に見合うように。
 
★終わり★