凡人が成果を出すための習慣

残業ゼロで成果を出すには、どうしましょうか?

小説:ヒーローの管理職 第9話 自分の管理の章5

マネジメントについての連続小説です。

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 東條は”悪夢の日”に、どんな気持ちでその場にいたかを思い出した。
 ただ、仲間を守りたかった。仲間とともに、過ごす日々が楽しかった。その日々を終わらせたくなかった。
 異能者同士が争い、命を奪い合うなど、あってはならないと思った。
 異能者の力は社会に大きく役立つはずなのだ。危険と隣り合わせで、すり減らしていくようなものではないはずだ。

 東條は4年前の”悪夢の日”のことを考え、直視して気が付いた。
 東條は、異能者が住みよい社会にしたいと思っているのだ。今は異能者同士が争い、普通の人たちとの共存を妨げている。東條にとって、異能犯罪者との戦いの日々も、西陣との戦いも、全ては異能者同士が互いの命を削り合うことをやめさせたくてしていたことだった。
 異能犯罪者は、黄原が面談で言っていたように異能者の地位を脅かす。異能犯罪者のせいで、異能者全体が危険な存在と考える人も少なからずいる。
 ヒーローは、異能者が社会を守る正義の味方であるという認識を与えている部分はあるかもしれない。だが、異能者の犯罪を異能者が止めるなど、一般人からすればマッチポンプのように見えるだろう。異能犯罪者がマイナスにした状況を、ヒーローがただゼロに戻そうとしているだけである。社会にとってプラスにはならない。
 東條は、異能の力が社会に役立つために使われ、異能者が社会に調和して生きられるようにしたいのだ。
 そのために、異能者と社会の調和に仇なす異能犯罪をなくしたいと思っていることに気が付いた。

 東條は自分のビジョンをこう記した。
 ”異能者と非異能者が共存できる社会にする”
 "非異能者"とは、ヒーローアソシエーションの用語で、能力を持たない普通の人のことを指す。
 東條はこのビジョン実現のために人々を守り、異能犯罪をなくすために異能犯罪者と戦っているのだと気が付いた。

 白川が感じていた疎外感は、異能者が共存できる社会にすることで無くすことができる。
 黄原が人を守る理由も、ヒーローとしての魅力を伝えることで異能者が違和感なく生きていける社会を目指してのことかもしれない。
 赤崎は…まだ何とも言えない。

 腹落ちする自分のビジョンを考えついた東條は、次に、全隊員に対して彼らの思いを聞くことにした。自分のビジョンを共有する前に、まずはヒアリングである。
 東條は1人ずつ面談を行い、各隊員の思いを確認していった。
 結果としては、東條のように異能の力があるから成り行きでヒーローアソシエーションへ入った、という者が多かった。
 白川が言っていたような、疎外感を感じてヒーローアソシエーションへ入ったという者や、黄原のようにヒーローへのあこがれから、という者もそれなりにいた。
 隊員のほとんどが、その3タイプのいずれかに当てはまる理由でヒーローになったようだった。
 自分の異能が生かせる社会。
 異能者でも疎外感のない社会。
 異能者が恐れられることが無い社会。
 それらを、東條のビジョンは目指すものである。
 面談により、多くの隊員にとってそのビジョンは共感できるものという自信が付いた。
 東條は司令官として、”異能者と非異能者が共存できる社会にする”というビジョンを隊員に共有することに決めた。

 だが、このビジョンを単純に伝えても、おそらくは隊員に響かないだろうし、すぐに忘れ去られてしまうだろう。
 那須賀によれば、ビジョンはいつでも見に入る場所に明文化しておき、常に行動に反映できるような工夫がいるという。
 たしかに、前職の頃を思い出すと”ヒーローの活動を武装で支えることで、異能犯罪の無い社会を実現する”という那須賀のビジョンが定例の冒頭で毎回表示されていた。チームのビジョンを実現するための模範的な行動も、ビジョン下に書かれていた。確か、”ヒーローに役立つアイディアを月3つ考える”などであった。ビジョンを実践するための行動指標である。
 東條は那須賀が行っていたことを参考に、ビジョン定着の方策を考えた。
 東條は小さな紙にビジョンを印刷し、隊員の座席の所々に置くことにした。トレーニングルームにも、印刷した紙を貼り付けるつもりだ。ただ、実際にそれを行うのはあくまでも隊員にビジョンを共有した後である。
 また、ビジョンを行動レベルに落とした、次のような行動指標も作った。
 ・非異能者を助け、信頼関係を築く
 ・異能犯罪者を止める
 ・自らの能力をより社会に役立てられるようにする

 非異能者と共存できる社会の実現には、異能者による非異能者への被害などあってはならない。その上で、非異能者と異能者が互いに信頼できる社会を目指すべきだと考えた。”非異能者を助け、信頼関係を築く"は、それを表した行動指標である。
 また、異能の力を悪事に使うことがなくならない限り、異能者が社会に共存することはできない。それはビジョンの実現のためには止めるべきものだ。”異能犯罪者を止める”は異能犯罪者捕獲部隊の基本業務ではあるが、そういう思いから、あえて入れた。
 東條は、上記の二つの行動指標はすぐに作成することができた。だが、その二つだけではあまりにも当たり前すぎて、ビジョンの実現には足りない気がした。
 そこで、東條はさらに行動指標について考えた。どのような行動をすれば、”異能者と非異能者が共存できる社会にする”ことができるのか。
 だが、それは単純なことだと気が付いた。異能の力を、社会に役立つように使えばよいのである。そうすれば、異能者は新しい”有用な個性”として、より社会に受け入れられるに違いない。
 隊員はすでに異能犯罪への対処のため、社会に役立っているとは言える。だが、一人ひとりが”自らの能力をより社会に役立てられるようにする”ことを意識して欲しい、その考えから、この行動指標を3つ目に追加した。

 ビジョンができ、それを行動として具体化した指標もできた。次にすることは隊員への共有だ。
 この時、すでに、東條が着任してから1か月が経過していた。

★つづく★