凡人が成果を出すための習慣

残業ゼロで成果を出すには、どうしましょうか?

小説:ヒーローの管理職 第2話 序章2

マネジメントについての連続小説です。

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自己紹介を続けながら、数日前に前職の上司と飲みながら話したことを東條は思い出していた。

 

***

 

那須賀さん、私は不安なんです。チームなんて率いたことがないですから…」

那須賀(なすが)は、東條の元上司である。東條がヒーロー用戦闘スーツを作っていた前職にいたころの上司。

小柄な気の良いおじさん、という感じの上司である。彼と、東條はと居酒屋で飲んでいた。

 

司令官着任という依頼を引き受けたものの、不安が胸をよぎる日々が続いたため、信頼できる元上司に相談していたのだ。

那須賀は、東條の目から見てすばらしいリーダーであり、マネージャーであった。

常に東條を含むメンバーに気を配り、疲れていたら声をかけ、要望を聞き、メンバーにとって仕事がしやすい環境を実現していた。

さらに、強いリーダーシップでメンバーを先導し、質の良いヒーローの戦闘用スーツの企画立案、製品化を多く成功させた。

 

「どうしたら、那須賀さんみたいなマネージャーになれるんですかね。」

東條は那須賀へアドバイスを求めた。

「結局、司令官っていう肩書は、いわゆる課長みたいなもんと思っていいのかな?」

那須賀は聞いた。

「そうですね。基本的には、一般企業でいう管理職に近いです。」

「なるほどな。まぁ、一朝一夕にはいかんわな。俺もそれなりに苦労して今の成果が出せるようになったからなぁ。

ただ、部下に俺と同じような仕事ができるよう成長させるのも、マネジメントだから、俺の知っていることでよければ、役立ちそうなことを伝えることにしようか。

東條はもう俺の部下じゃないけど、そこは大目に見てやるよ。」

そう那須賀は笑って、マネジメントやリーダーシップについて語りだした。

「ありがとうございます。」

東條は聞き逃すまいと、ノートとペンを手に、那須賀の顔をじっと見た。

 

「まず、マネージャーとリーダーって何が違うかわかるか?」

東條は自分なりにマネジメントやリーダーシップについて調べていたため、その時に目にした言葉を思い出しながら伝えた。

「マネージャーはメンバーのパフォーマンスを最大化する役割で、リーダーは目標に向かってメンバーを導く役割、ですかね。」

「そうだな。一般的な表現として、正しいと思う。けど、なんだかもやっとしないか?」

「まぁ、具体的に仕事での違いがはっきりイメージできるかと言われると、しづらいですね…」

「そうだよなぁ。とりあえず、リーダーの例をバトル物の少年漫画の主人公なんかで思い浮かべると、違いが想像しやすいかもしれないな。」

「少年漫画…ですか?」

「バトル物のな。そういう漫画では、主人公がいて、仲間がいて、一緒に敵と戦っていくだろ?あの、海賊の漫画がわかりやすいかもな。麦わらの。他の漫画でも、主人公と仲間たちが一緒に戦っていくようなのはよくあるだろ。そういうのを想像してみな。」

「リーダーの例として、仲間と一緒に戦うバトル漫画の主人公を想像しろってことですか?」

「そうだ。だいたい、主人公ってのは明確なビジョンがあるもんだ。『王になりたい』とか『あの人を助けたい』とか『アイツを倒したい』とか、『世界の平和を守りたい』とか。そしてその思いに仲間が付いて行っている。だから、メンバーを率いる、熱い思いを持ったリーダーと言える。」

「なるほど。で、マネージャーとの違いはなんなんでしょう?」

「まぁ、焦るな。そういう漫画の主人公ってのは、リーダーだが、マネジメントはしてないよな。

具体的には、仲間メンバーの戦闘スキルを高めたり、モチベーションコントロールをしたり、1年後にボスを倒すためには、1ヶ月後にはあの幹部を倒すようにしないと、と考えてスケジューリングしたり。そんな管理はしてないだろ。」

「確かに。そんなことしてる主人公って聞いたことないですね。」

「だよな。アイツらはリーダーだが、マネージャーじゃないんだ。それが、リーダーとマネージャーの違いだ。もちろん、リーダーとマネージャーの定義なんて正式に決まってないから人によって違うかもしれない。でも、なんかイメージしやすいだろ?」

「かもしれません。」

「主人公の仲間たちは、基本的に優秀なんだ。いちいち指示しなくても敵を倒すし、自分の意思で修行して強くなっていく。漫画の世界はメンバーが優秀だから、マネジメントが不要なだけだ。究極、メンバーがすべて優秀なら、漫画の主人公みたいに、マネジメントなんてなくても目的が達成できる。

だが、現実はそうはいかない。優秀なメンバーだけがそろった組織のほうが少ないもんだ。だから、多くの場合、リーダーにマネージャーの役割が同時に求められ、その結果、混同されるようになったと俺は思っている。

まぁ、組織の目的は凡人に非凡なことをさせること、なんてことを言った偉人もいるぐらいだからな。リーダーが成し遂げたいことをするには、普通の人に優秀な人に近い成果を出させるマネジメントが必要ってことだ。」

「なるほど。ただ、もうちょっとリーダーとマネージャーの違いを具体的お教えてもらってよいですか?」

「もっと具体的には…そうだな、リーダーに必要なもの、要するに主人公たちが持ってる特性がこんな感じ。」

那須賀は東條のノートに走り書きした。

 

〈リーダーに必要なもの〉

 リーダーシップの発揮

 ・明確なビジョン

 ・人としての魅力

 ・仲間との信頼関係を築くこと

 

「一方、マネージャーに必要な能力は、もし主人公の仲間たちが優秀じゃなかったら、何をしないといけないかを考えてみると良い。次のようなもんかと思うが。」

那須賀は続けてノートに書いた。

 

〈マネージャーに必要なもの〉

 メンバーの管理

 ・モチベーション管理(要望や疲労の管理)

 ・メンバーの力量を合せる(属人化の排除)

 ・メンバーの育成

 仕事の管理

 ・仕事の業務指示

 ・仕事の権限委譲

 ・課題管理やスケジュール管理などのゴール達成のためのコントロール

 

 

「とまぁ、分けて書いてみたが、どっちも必要なんだ。管理職って立場なら、分けて考えなくても良いと思う。」

「ええ!?じゃあ、なんでリーダーとマネージャーの違いの話なんてしたんですか。」

「そう言われると思ったよ。」

笑いながら那須賀は続けた。

「それは、これから俺がリーダーシップもマネジメントも一緒くたに、”マネジメント”という言葉にして話すからだ。リーダーとマネージャーの違いって何?みたいなことに引きずられないように、俺の話を聞いてもらいたい。だからあえて、違いを説明したうえで、混同して考えていいよと東條に伝えたかったんだ。」

「…ちょっと、混乱してきました。」

「すまんすまん。もう少し、何をどう一緒くたにして”マネジメント”とするかを説明しよう。こういうことだ。」

そういって、那須賀は再びペンをとると、先ほど書いた”リーダーに必要なもの”の部分にこう追記した。

 

リーダーシップの発揮 = 自分の管理

 

「リーダーシップの発揮が、”自分の管理”…ですか?」

「そうだ。あくまで、俺の考え方だがな。自分の管理、つまり自分のマネジメントだな。リーダーシップを発揮するには、自分の振る舞いを律することが必要だと思っている。マネジメントをするための自分の時間の確保や、ビジョンを仲間たちに共有し続けること、信頼関係をメンバーと作るための振る舞い、などだ。

それは自分を管理し、自分の行動を変えることに他ならない。

リーダーシップとは、自分の行動をマネジメントすることだから、リーダーシップもまとめて”マネジメント”と表現することにしている。」

「なんか、分かるような分からないような。」

「自分の管理、ということをもう少し理解しやすくするため、例を挙げようか。

ダイエットして体重を落としたい人がいるとする。でも、その人はどうしても夜にお菓子を食べてしまう。さぁ、どの人はどうすればダイエットできるだろう?」

「そりゃあ、お菓子を食べないように我慢して、運動すれば痩せられると思いますが…」

「だよな。ただ、一つ違うのは、”我慢して”意志力でダイエットしようとするんじゃなく、自分がダイエットできるように自分の行動を管理することが大事なんだ。具体的には、玄関の必ず踏まないといけない位置に体重計を置いて、自分に今の状況を強制的に認識させるとか。他には、単純に夜にお菓子を食べられないように、お菓子を家に置くのをやめたり、という感じだ。

何かをするときは、やる気や意志はもちろん重要だと思うが、もっと必要なのは成し遂げるための行動が取れるように、自分の行動を管理することなんだ。」

「同じように、リーダーシップの発揮も、発揮できるように自分の行動の管理が必要と、そういうことですか。」

「ああ。さっきの例のダイエットをリーダーシップの発揮に置き換えるだけだ。繰り返すが、リーダーシップを発揮するために自分を律すること、それが自分の管理なんだ。」

 

那須賀はさらにノートにペンを向け、記載した。

 

1.自分の管理

2.メンバーの管理

3.仕事の管理

 

「リーダーシップもマネジメントも、両方ひっくるめてこの三つの管理、すなわち”マネジメント”の実践だ。それぞれの管理が具体的に何であって、どう実践するかついて、これから話す。まずは、自分の管理からだ。」

 

そう始まった那須賀の話は、2時間以上にも及んだ。

東條は、それを一生懸命、確認をしながら書き留めていった。

 

その時に聞いた”自分の管理”の枠組みの中に、自分の振る舞いとして、

「とにかく部下とは話しやすい環境、雰囲気を形成して信頼関係を築け」という言葉があった。

 

***

 

東條は隊員たちの前で自己紹介を続けた。

「私は司令官という立場です。いわゆるマネージャーという役割です。みなさんはマネージャーと対をなす役割であり、プレーヤーと言えるでしょう。マネージャーとプレーヤーは同等の立場であり、どちらが上ということはありません。ただただ、別の役割というだけです。プレーヤーのみなさんは、個人として成果を上げることを考え、マネージャーである私は組織として成果を上げる、つまりはみなさんに成果を上げていただくようにすることを考える、という違いがあるだけです。上下はありません。要望、不満、ご意見、なんでも私に言ってください。それでは、これからよろしくお願いします。何か質問はありますか?」

那須賀のアドバイス通り、隊員たちが話しやすいように、言葉を選んだつもりだった。

ただ、返答はない。

下を向いている隊員も多い。

前司令官から聞いていたが、隊員同士の関係が良好というわけではないし、業務にみながやりがいをもって挑んでいるわけではないとのことだった。

チームの雰囲気は良いとは言えない。

「一朝一夕にはいかないか。」東條は独りごちた。

 

隊員の1人である、赤崎が言った。

「で、もういいですか?トレーニングに戻っても。」

明らかにダルそうな顔である。

東條は思った。

(赤崎涼真。彼が前司令官が言っていた、異能犯罪者捕獲部隊のエースであり、問題児か…)

前司令官とは、何度も衝突していたという。だが、赤崎のヒーローとしての能力はとても優秀で、人材不足であるヒーローアソシエーションとしては、赤崎を外すことはできない状況だった。

 

東條は、これからこのチームを率いていくことに不安を抱きながら、隊員たちに業務へ戻るよう伝えた。隊員は自席やトレーニングルームへ戻っていく。

すると、白川が東條の元へ駆け寄ってきた。

「東條司令官、憧れの方と仕事ができるのは嬉しく思います。司令官がおっしゃっていたように、いろいろ相談させてください。これから、宜しくお願いします。」

東條は、白川がそう言ってくれて少し安心した。

那須賀に教わった事が功を奏したのかもしれない。

 

それでも、チームを率いることが初めての東條には不安が付きまとった。

だが、不安があろうとなかろうとチームとしての成果を上げることがマネージャーの務めだ。

司令官として、異能犯罪者捕獲部隊におけるヒーローたちの成果を最大化させることが東條の使命なのだ。

 

東條は那須賀から教わった3つの管理を反芻した。

自分のノートには、こう要約されている。

1.自分の管理

 1-1.信頼関係を築く行動をとる

 1-2.ビジョンを共有し続ける

 1-3.マネジメントの時間確保

2.メンバーの管理

 2-1.メンバーの要望/疲労状態の把握

 2-2.属人化の排除

 2-3.継続的な育成

3.仕事の管理

 3-1.適切な業務指示

 3-2.適切な権限委譲

 3-3.ゴール達成のためのコントロール

 

それぞれの項目について、那須賀は丁寧に説明してくれた。東條は那須賀の話をびっしり書き込んだノートを常に手放さず、マネジメントを実践しようと考えていた。

那須賀から教わった3つの管理を実践していくことを胸に、新米マネージャー東條はチームを率いる覚悟を決めた。

 

★つづく★