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小説:ヒーローの管理職 第1話 序章1

管理者、マネージャー、チームリーダー。
みなさんチームを率いることがあるかと思います。
私の経験、得た知識をもとに、管理者に必要な3つのものを小説で表現しました。
楽しく読み進めながら、情報を得ていただければと思います。

 

■ヒーローの管理職 3つの管理

東條甚一郎(とうじょう じんいちろう)は自分の職場である高層ビルの前で、不安と緊張に包まれていた。

今日から、チームを率いるのだ。いわゆる、リーダーシップとマネジメントが必要な立場となる。

この大役を自分に任せると告げられたのは3か月前だ。

 

東條は4年前までヒーローアソシエーションに勤務し、ヒーローとして犯罪者と戦っていた。そしてヒーローを辞めてからは、一般企業に勤めていた。今から3ヶ月前、ヒーローを辞めた東條に、ヒーローアソシエーションの司令官から電話が入り、一度会って話がしたいと言われたのだ。

電話をくれたのは、4年前に東條がヒーローを辞める前に着任した司令官だ。短い間だが、東條はその司令官の元で任務をこなしていた。そのため、東條はその司令官と面識がある。

責任感の強い、まじめな司令官というイメージだ。

その司令官が訪れ、東條に次の司令官としてヒーローたちを率いてほしいと、直接頭を下げたのだ。

 

東條はヒーローとして戦い、4年前に起きた大きな戦いで負傷した。当時、28歳であった。

回復後に任務に戻ったものの、多くの仲間をその戦いで失い、救えなかった自分への罪悪感から、ヒーローアソシエーションを脱退した。

治療復帰から脱退までの1ヶ月間、その司令官と任務に就いていたのである。

ヒーローを辞めてからは、ヒーロー用戦闘スーツを作成する企業の製品開発を行う部門で、ヒーローとしてのこれまでの経験を生かして働いていた。

 

すでに脱退した東條に対しての、司令官からの依頼である。東條からしてみれば、予想だにしない出来事。

よほどヒーローアソシエーションで人材不足が起きていると考えざるを得なかった。

4年前の戦いで負傷した東條は、恐怖の気持ちが大きく、気がすすまなかった。依頼を断ってしまおうとも考えた。

だが、4年前のあの戦いで多くの優秀なヒーローを失ったことを考えると、むげに断ることがためらわれた。

目の前で多くの戦友が倒れていく姿を思い出し、この人材不足の状況は、その場にいた自分の責任だと思ってしまうのだ。

悩んだ結果、引き受けることにした。

3ヶ月経って諸々の引継ぎを終え、今日は司令官として着任初日である。

 

ヒーローアソシエーションは、政府組織の一部である。政府が管理する高層ビルの地下に、ヒーローアソシエーションの職場はある。

敵からの攻撃が届きにくい場所、ということで、地下が職場となっているらしい。

4年前までは東條も一人のヒーローとして、そこで毎日仲間と切磋琢磨し、敵が現れた時には出動して戦っていたのだ。

その仲間たちは、もう誰もいない。

「4年前のようなことは、二度と起こすまい」

そう独りつぶやくと、ヒーローアソシエーション員に配布されるアソシエーションカードをドアの横にかざした。

「ティリリーン」という音とともに、自動ドアが開いた。東條は深呼吸し、ドアをくぐった。

 

***

 

23年前、東京に隕石が落下した。決して大きな隕石ではなかった上、深夜に落下したということもあり、街や人への被害はほとんどなかった。

成人男性の握りこぶし程度の大きさだった隕石を、落下した場所から政府の調査員が採取し、研究機関へ移送した。

この調査の結果、隕石には異常な力があることが分かった。

調査員が最初の異変を目の当たりにしたのは、調査が始まって1ヶ月ほどたったころである。

複数の調査員が調査に関わっていたのだが、そのうちの1人が「手を触れずに物を動かす」という力に目覚めた。

いわゆる超能力、異能の力である。

さらなる調査の結果、調査団は下記の結論を導いた。

「“石”は特定のDNAパターンの人間に対して、多種多様な超人間的能力を与える」

 

"石"に触れたある被験者は5㎞も先の人の顔を識別できるようになった。

本人曰く、目で見るのではなく、脳にイメージが浮かぶようになった、という。

レーニングを経て、その被験者は遠くのものでも、方角やおおまかな場所の情報があれば明確に見たいものが見られるようになった。

 

また、別の被験者は単純に腕力が増した。

見た目はもともと全く変わらないが、腕力としてはそれこそアメコミヒーローさながらとなった。

初めはいろいろなものを壊さずにつかむことに苦労をしたが、彼もまた、トレーニングで力をコントロールできるようになった。

 

ただ、”石”に触れたすべての人に対して超能力が発現するわけではなかった。能力を手にする人は非常に少ない。

能力が発現した人々を分析すると、DNAにある特定のパターンがあった。

その、異能DNAをもつ数少ない人間のみが、”石”に触れることでそれぞれ個人特有の異能の力を持つことが分かった。

 

ただ、あまりにも衝撃的な事実であったため、政府は世間に公表しなかった。

大きな力をどう扱うべきか。軍事利用すべきという意見や、海外に能力を売るような国産事業とするという意見、様々な意見を戦わせている中、政府の外で事態の進展があった。

”石”を保管する東京付近で、明らかに異能者と認定せざるを得ない人々が現れだしたのだ。

ようするに、政府の管轄の外で異能の者が現れる、という事態になった。

”石”は直接触れていない者に対しても、異能DNAに反応して、異能の能力を与えてしまうのである。

政府としては、対策を急がなければならなくなった。

だが、これまで政府が経験したことがない事態である。

公表すれば異能者が差別を受けないか、国民がパニックにならないか、など、これまた議論になり、対策は進まなかった。

手をこまねいているうち、とうとう自然発生した異能者による犯罪が起きてしまう。

 

あるものは壁を異能の腕力で壊し、金品を強奪した。

あるものは素手で感電させるという異能を用いて、殺人を犯した。

異能者による隠れた犯罪はもっとあるだろう、そう思われた。

 

異能による犯罪の立証には、これまた”石”が使われた。

異能の者には”石”が光って反応する。それにより、犯罪者を異能であると証明することができた。

さらに、”石”は異能の力を取り除くことができることも分かった。

犯罪を犯した異能者からは、”石”の力で能力を取り除くという処置が行われるようになった。

 

異能者の存在を隠しきれなくなった政府は、「原因はわからないが、そういう種の人間が現れだした」と発表した。

”石”の存在は隠し、自然発生的に異能が現れたということにしたのだ。

これは、”石”の存在を明かすと様々な国、組織、異能者自身が”石”を狙ってくると考えたためだ。

 

異能による犯罪者が現れると、犯罪を食い止めるために活動する異能者が一部現れた。

彼らは、民衆を守るという立場からか、いつしかヒーローと呼ばれるようになった。

政府はそんなヒーローたちが活動しやすいよう、組織を作った。

それが、異能の犯罪に異能で対処する、ヒーローアソシーションという組織である。

本来、"アソシエーション"という単語は、共通の目的を持つ人々が自発的に作る組織のことである。よって、政府直下組織として"アソシエーション"を使うことはおかしいのだが、元々ヒーロー達が自発的に作り上げたもの、という意味を込めて、あえて"アソシエーション"という言葉を使ったという。そのぐらい、ヒーローへの期待、悪い言い方をすれば依存は大きいということだ。

ヒーローアソシエーションの誕生は、隕石の落下から3年後の、今から20年前の話であった。

その設立から20年経った今でも、異能の犯罪者は絶えない。

 

***

 

「おはようございます。」

東條は挨拶とともにオフィスに入り、あたりを見回した。

地下であるため窓はない。だが、窓がないという以外、見た目は一般的なオフィスに近い。

各ヒーローたちの机があり、椅子がある。

一般的なオフィスと違う点としては、オフィスの奥にトレーニングを行うための施設があることだろうか。

レーニングルームと呼ばれ、東條もヒーローとして現役のころはよく利用していた。

 

ヒーローアソシエーションの責務は異能者の犯罪を突き止め、異能者の犯罪を防ぎ、異能犯罪者を捕まえ、その異能者の能力を取り除くことである。

その責務のうち、東條が司令官として配属されたのは異能犯罪者を捕まえるための組織。

異能犯罪者捕獲部隊、と呼ばれている。

言い換えると、暴れまわっている異能犯罪者を無力化して取り押さえる、戦闘集団である。

その異能犯罪者捕獲部隊には13名の隊員が勤務している。

 

東條があたりを見回すと、幾人かが現在オフィスにいることが見て取れた。

こちらを見ていぶかしげな顔の者もいれば、東條をちらちらと何度も様子を伺うように見てくるものもいる。

東條は前司令官との簡単な引継ぎは終えていた。

「わからないことがあれば、隊員たちがおおよそ知っているから。」というのが前司令官からの言葉であった。

 

(とりあえず自己紹介だな。)東條は思った。

東條をちらちらと見つめる女性隊員に声をかけた。

「初めまして。新しい司令官の東條です。着任の挨拶がしたいので、隊員の皆さんを集めてもらえますか?」

「は、はい!わかりました!」

そのネコ目の女性隊員はそう東條に言うと、みなさーんあつまってくださーい、と大きな声でいった。

「何人かはトレーニングルームにいるようなので、呼んできます。」

そう彼女は言うと、トレーニングルームへ走っていった。

 

(彼女が白川有奈(しらかわ ありな)だな。)

東條は心の中でつぶやいた。

前司令官からの引継ぎで各隊員のプロフィールは聞いていた。

白川有奈、24歳。能力は”サイコキネシス”。いわゆる、手を触れずに物を動かす能力である。

白川が犯罪者との戦闘が多いこの部隊で重宝されている理由は、彼女が銃弾を自在にコントロールすることに長けているからである。

一般的なサイコキネシス能力者は、銃弾のような速く動くものを自在に操ることはできない。

だが、白川は驚くほど精密に、狙った位置に自らが放った銃弾を着弾させることができる、とても稀有な能力の持ち主であった。

遮蔽物に隠れた相手でも、安全な位置から狙撃できるため、部隊でも常に第一線で活躍しているヒーローである。

また、前司令官によれば、白川は4年前の戦いの生き残りである東條を神格化している節があるとのことだった。

 

そんなことを思い出しながら待っていると、トレーニングルームから白川とともに、のそのそと3名の隊員が出てきた。

東條は、引継ぎで見たプロフィール写真を思い出しながら、1人ずつ顔を見た。

1人はこちらを一瞥したものの、見向きもしない男、赤崎涼真(あかざき りょうま)。

レーニングを遮られたためか、不快そうな顔をしている。

1人は無表情で歩いてくる長身の男、青森慎吾(あおもり しんご)。

もう1人は、筋肉隆々な男、黄原典正(きはら のりまさ)。優しく微笑んでいる。

 

出勤者全員がフロアに集まったことを確認して、東條は話を始めた。

「みなさん、初めまして。東條甚一郎と言います。本日から異能犯罪者捕獲部隊の司令官として着任しました。よろしくお願いします。」

 

 

★つづく★